文部科学省私立大学、学術研究高度化推進事業

ハイテク・リサーチ・センター整備事業インタビュー

 

体内時計調節のタンパク質がメタボ発症と関係している ことを究明

 

榛葉茂紀准教授

メタボリックシンドロームは内臓脂肪型の肥満に加え、糖尿病や高血圧、高脂血症など複数の生活習慣病が合併した病気であり、患者数は増加する一方だ。2008年4月からは特定健康診査も始まり、メタボ対策は今や国レベルで進んでいる。こうした問題に薬学の見地から考え、その原因である太ることの秘密を解明すべく研究に取り組んでいるのが榛葉繁紀(しんば・しげき)准教授だ。体内時計調節の役割を果たすタンパク質の正体に迫りつつ、「世の中で常識だと思われることの科学的根拠を示し、一般の人の健康に貢献したい」と熱い気持ちを示す。研究内容と日頃の活動、今後の抱負などについて尋ねてみた。


 

 

■ 時計遺伝子「BMAL1」を研究し、「夜に食べると太る」を立証

Q.メタボリックシンドロームの一つの仕組みとして、「体内時計」調節のタンパク質を分子レベルで 解明しようと思ったきっかけは何だったのでしょう?
A.私はもともと病気の謎を解明し、新しい薬につなげるような仕事がしたいという気持ちから薬学研究の道に進みました。アメリカのベイラー医科大学で研究者としての修行を積んだ後、日本大学薬学部でダイオキシンが脂肪細胞に及ぼす影響などの研究を行いました。その中で、ある種のタンパク質がダイオキシンと結合すると体脂肪が減少することに着目。それと似たタンパク質を調べれば肥満を防げるのではないか、という発想にたどりついたのです。その一つがDNA(遺伝子)に結合している「BMAL1(ビーマル・ワン)」というタンパク質で、朝起きて夜寝る生活リズムをもたらすなど体内時計の調節機能があることを突き止めました。以来10年以上、この「BMAL1」と肥満の関係を調べ続けています。ちょうどメタボリックシンドロームが話題に上り始め、この研究テーマは注目が集まりやすく、社会的インパクトも十分と感じたことも研究意欲に火を付けました。
榛葉准教授
Q.具体的に「BMAL1」はどのような働きがあるのでしょう。
A.「BMAL1」は研究していくうちに、脂肪細胞を作っていく時の重要なタンパク質だと分かりました。つまり、脂肪を作ってため込むための酵素を増やす働きをするのです。しかも体内リズムと密接な関係を持ち、時間帯によって増減する。いわば脂肪蓄積の司令塔の役割を果たすもので、昼間は少なく、夜になると増えることを明らかにしました。特に1日のうち午後10時から午前2時頃が最高で、最も少ない午後3時の約20倍に達する。つまり「夜遅く食べると太る」ことが分子レベルで分かったのです。また糖尿病と高血圧は遺伝も大きく影響しますが、そうした病気の家系を調べると「BMAL1」の数に異常があることが判明。同様に、昼と夜の区別ない生活をしているとメタボになりやすいことも私達の研究を基にした大規模疫学調査で解明されてきました。たとえば、看護師やドライバーなどシフトワークをしている人は、肥満からメタボになりやすいという統計も出ています。つまり、常に朝日を浴びるなど朝だという刺激を与えないで生活すると、「BMAL1」が夜だと勘違いして出っぱなしになったりするのです。このことから「夜遅い食事を避ければ肥満防止につながる」との結論に至りました。要は昔から言われる通り、早寝早起きを守って朝型生活を心がけることが健康に結びつくと分かったのです。
榛葉准教授 研究中
Q.榛葉先生自身も実生活ではそのような生活を心がけているのですか?
A.はい。私自身、10年前は今よりもかなり太っていました。研究して遅い時間に帰宅しても、おなかを満たすためにかなり夜食を食べていたのです。ただ自分の研究を立証すべく、どんなに仕事が遅くなっても夜7時以降は一切食べない、それでも食べたくなったら野菜やフルーツだけにする、そんな生活を習慣づけたらみるみる痩せてきたのです。また夜に食べ過ぎない方が、次の日の朝の目覚めも良く、リフレッシュできるようになりました。

 

 

 

 

■ TVや地域の啓蒙活動も大切に、健康に関わる情報に科学的根拠を与えたい

Q.普段の研究はどういう形で進められているのですか?
A.タンパク質自体を顕微鏡で見ることはできないので、研究はマウスなどを使って細胞の量を多くしたり少なくしたりしながら様子を見たり、シャーレで細胞を飼い続けたりして研究を続けています。
榛葉准教授
Q.研究室の学生に対してはどう向き合っていますか?
A.研究を楽しむことは大切ですが、ふざけるのではなく厳しい姿勢を求めています。たとえばマウスを使って実験することは、ある意味、命をもらって行うことなので、真摯な姿勢で研究しない学生には厳しく注意します。また学生は自分の意見があったら、そこから次の研究のヒントが生まれる可能性もあり、寡黙であることは決して美徳ではない、どんな些細なことでもいいから口に出すように言っています。学会活動などでも受け答えはしっかりして、常に外ではきちんとしているように諭しています。
榛葉准教授 榛葉准教授
Q.日本大学薬学部が提案した「メタボリックシンドロームの予防ならびに治療に対する生体リズムを基盤としたアプローチ」が2007年度に文部科学省から「ハイテク・リサーチ・センター整備事業」に選定されています。その核となるのが榛葉先生のユニットですが、今後の目標はどのようなことになりますか。
A.2007年度から5年間は文部科学省から支援をもらえる立場であり、毎年確かな成果を示し、有益な論文を残せるようにしていきたいですね。現在は「BMAL1」の無いネズミを作って、脳、肝臓、筋肉などからBMAL1を取り除くとどうなるかなどの実験を繰り返しています。たとえば心筋梗塞は午前中に、痛みやかゆみは夕方に、ぜんそくは夜中に発症しやすいなど病気には時間の傾向もありますが、それも体内時計調節が関係していると思われるわけで、そうした各臓器と「BMAL1」の関係を詳しく解明しようとしているところです。それが分かれば、新薬開発などにもつながるかもしれません。
研究
Q.「世界一受けたい授業」などのテレビ番組に出演されたり、地域連携による啓蒙活動も活発に行われているようですが。
A.日本大学薬学部のアピールになればということもありますが、一般の人への啓蒙活動も大切だと感じています。たとえば地元の中学校や高校などに出向いて、生徒や先生、保護者などに語りかける講演活動を積極的に行っています。その時はたとえば平安時代の「源氏物語」を例に挙げて、光源氏のモデルとなった貴族は夜更かししていただけでなく一日5食も食べていて、3日に一度は宴会に興じていた。その結果、メタボで糖尿病だったという話をしたりして興味を持ってもらいます。また絶食させたマウスにおやつを食べさせる実験をすると、確実にリバウンドをして太るなどの結果を見せてあげます。だから食事を抜いてのダイエットは逆効果で、一食ごとの量を減らした方が効果的といった結論をわかりやすく解説したりしています。
榛葉准教授 榛葉准教授
Q.最後に、榛葉先生の研究の究極の目標はどういうことになりますか。
A.私たちが目指しているのは、世の中の常識とされていることに対してきちんと科学的根拠を示すこと。迷信めいたものを排除しながら、正しいことの裏付けを取り、説得力を積み上げ納得してもらうことにあります。実際、”健康に長寿を全うするには、規則正しく生活すべし”と神様が細胞レベルまでに落とし込んで、私たちに語りかけているように感じることもあります。近年は情報過多で何が本当かの取捨選択が難しい時代だけに、今後も健康に関しては、科学的に裏付けられた正しい情報を皆さんに提供していきたいと思います。

 

 

 

 

 

榛葉准教授

〈プロフィール〉

榛葉 繁紀(しんば・しげき)
日本大学薬学部 基礎薬学系衛生化学ユニット 准教授
1991年静岡県立大学大学院修了。その後米国・ベイラー医科大学で4年間学び、95年から日本大学薬学部に勤務。2006年に学術論文賞を受賞、専任教師から准教授へ。薬学博士。 日本薬学会、日本生化学会、日本肥満学会、日本時間生物学会などに所属。静岡県出身。


 

 

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