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研究・社会貢献
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科学研究補助金 CaseStudy10


グラム陰性菌の毒性発現制御因子である
細胞間情報伝達物質の動態解析法に関する研究

有機化学研究室 教授 宮入伸一
細菌は、小さな細胞で膜に覆われている。青紫色のクリスタルバイオレットという色素を含むグラム染色液で色が付くものはグラム陽性菌といい、細胞に色が付かない細菌をグラム陰性菌という。グラム陰性菌の仲間には、大腸菌やコレラ菌、赤痢菌など環境汚染や病気との関連で有名な菌が多く存在する。最近は、抵抗力の弱くなった患者さんが入院中に感染して社会問題化しているアシネトバクターや緑膿菌もグラム陰性菌の仲間である。

これら細菌は、一箇所で増殖して菌体密度が高くなると毒素を分泌して病原性を発揮する。なぜ、菌体密度が高くなると毒素を作るようになるのだろうか。その信号になるのが細胞間情報伝達物質である。グラム陰性菌の場合、脂肪酸とホモセリンラクトン(HSL)という物質が縮合したN-アシルホモセリンラクトン(N-acyl HSL)が信号物質として機能している。この信号物質は、菌が自分で作り出して分泌している。菌が増殖してN-acyl HSLの濃度が高くなるとそれを作る酵素の量を増やしてこの物質自体の産生量をさらに多くするようにセットされているので、オートインデューサー(AI)とも呼ばれている。また、AIの受容体の産生量も同様に増加するようにもセットされている。そして、AIの濃度がある特定の濃度(閾値という)を超えると、毒素産生のスイッチが入る(図1)。このような、メカニズムをクオラムセンシング機構という。

Fig. 1. クオラムセンシング機構による病原因子の発現

したがって、菌の毒性発現のメカニズムを検討する上で、AIの濃度を知ることは重要である。

図2. AIの構造

そこで、簡便かつ高感度分析に適した蛍光検出高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を利用した測定法を開発することとした。N-acyl HSLは発蛍光性ではないので、発蛍光性の物質との化学反応により蛍光標識する必要がある。その際の化学反応の足掛かりになる官能基として、多くのグラム陰性菌の情報伝達物質に共通する特徴的な化学構造である脂肪酸の3位のカルボニル基に着目した。このような化学構造のAIとしては、3-oxohexanoyl HSL (3-oxo-C6-HSL)、3-oxooctanoyl HSL (3-oxo-C8-HSL)、3-oxodecanoyl HSL (3-oxo-C10-HSL)、3-oxododecanoyl HSL (3-oxo-C12-HSL)、3-oxotetradecanoyl HSL (3-oxo-C14-HSL)が知られている(図2)。また、発蛍光性誘導体化試薬にはヒドラジンの誘導体を用いた。誘導体化試薬との反応条件や反応生成物の分離条件など種々検討してこれら5種類の化合物の濃度を一斉に測定できる分析系を構築した。そこで、緑膿菌の培養液中のAIを抽出し、誘導体化後、HPLCに付したところ、緑膿菌特有のAI分子である3-oxo-C12-HSLのピークが感度よく検出され、この分析法を用いて緑膿菌培養液中のAI濃度を測定できることが判明した。
引き続き、緑膿菌の毒素産生量のマーカーとなる毒素の測定法を開発した。これまでの研究では、緑膿菌の毒素マーカーにはピオシアニンという緑色の発蛍光性物質(この物質を産生することから緑膿菌といわれている)が繁用されてきた。しかし、感度の面から新たなマーカー物質が必要と考え、本研究では毒素マーカーとしてエラスターゼという酵素を用いることとした。エラスターゼはタンパク質分解酵素であることから、その酵素の基質となる特異的なアミノ酸配列をもつペプチドのN末端に発蛍光性物質を、C末端に同じ分子内にあると発蛍光物質の励起を阻害して蛍光強度を低下させる物質を結合させた基質を合成した。この基質は加水分解されると蛍光強度が顕著に増大するので、その程度から酵素活性、すなわち分泌された毒素の量が求められる。
 これらを組み合わせて、緑膿菌の菌体密度とAI分子濃度および毒素産生量を検討したところ、菌体密度が上昇し始めるとほぼ同時にAI濃度が上昇し、約2時間遅れてエラスターゼ活性が上昇することが明らかになった。また、AI濃度は上昇開始から4〜5時間でピークを迎え、その後低下し始めることも明らかになった。
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