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研究・社会貢献
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科学研究補助金 CaseStudy25


遺伝子工学を活用した huperzine A の新規供給システムの確立

生薬学研究室 助教 石内勘一郎

植物由来医薬成分の課題

植物由来の二次代謝産物で医薬品として市場に供給されているものは数多く存在します。代表的な例としてパクリタキセル (Paclitaxel)が挙げられますが、この化合物は微小管の脱重合阻害作用を有し卵巣がん、乳がん、肺がんなどの癌に対して幅広く用いられる抗癌剤です。パクリタキセルはイチイ (Taxus spp.)樹皮由来の微量成分であるため、その供給法は1) イチイ樹皮からの抽出、2) 有機化学的全合成、3) 前駆体であるBaccatin IIIからの半合成、4) 細胞培養法の4つの方法がとられています。しかし、これらの手法はいずれも大量供給には至らず世界的な需要を満たしていません。そのためパクリタキセルはいまだに高価な医薬品であり新しい大量供給法の開発が期待されています。このように植物由来の医薬的有効成分がその供給法に問題を抱えているケースは少なくありません。本研究では、同様の課題をもつアルツハイマー病改善薬候補化合物huperzine A (以下、HupA)の新しい大量供給システムの確立を目指します。

植物内生糸状菌の医薬資源としての可能性と問題点

本研究では植物由来医薬成分の供給問題解決の手段の一つとして内生糸状菌に着目しています。パクリタキセルの供給法がイチイ樹皮からの抽出法しか確立されていなかった1993年、Stierleらは太平洋イチイ (Taxus brevifolia)の内生糸状菌Taxomyces andreanaeがパクリタキセルを生産することを報告しました。それ以来、内生糸状菌は植物由来微量有用二次代謝産物を無尽蔵かつ持続的に生産し得る新しい医薬資源として注目を集めるようになりました。しかしその後の20年間、植物内生菌の培養条件が有用物質の大量かつ安定な供給が可能なレベルまで実際に最適化されることはなく、内生菌の医薬資源としての有用性を示すにはまだいくつかの障害が存在すると考えられています。

糸状菌由来二次代謝産物生合成の遺伝子工学 〜 問題解決の切り札

基本的に二次代謝産物は宿主生物の体内で生合成遺伝子という設計図に従って生合成されます。近年ゲノム解析の飛躍的な進歩に伴い、糸状菌由来二次代謝産物の生合成メカニズムを自在に操る遺伝子工学が著しく発展してきました。これまでの研究成果として、まず糸状菌由来二次代謝産物の生合成遺伝子を出芽酵母に組込むことで化合物を生物合成することに成功しました。このことは、糸状菌のゲノム上にコードされている生合成遺伝子の配列(二次代謝産物の設計図)さえわかれば、これを出芽酵母の高生産システムに適用することで二次代謝産物を生物合成できることを示しています。また、糸状菌を遺伝子操作が容易な株へと導くことで、二次代謝産物の生合成研究を迅速に進めることにも成功しました。すなわち、もし目的とする植物由来二次代謝産物を生産する糸状菌を獲得することができれば生合成の遺伝子工学的手法を駆使することで化合物の新しい供給法を確立することが期待できるわけです。

本研究の概要

本研究では、ヒカゲノカズラ科植物トウゲシバ(Huperzia serrata (Thunb) Trev.)由来の微量成分HupAを生産する内生糸状菌を獲得し、遺伝子工学的手法を活用することでHupAの新規大量生物合成システムの確立を目指します。HupAは強力なアセチルコリンエステラーゼ阻害活性を有し、可逆的かつ中枢神経系に選択的に作用するアルカロイドです。Galantamine、tacrine、rivastigmine、donepezilといったFDA (Food and Drug Administration)によりアルツハイマー病治療に対して試験あるいは承認されている化合物よりも長い作用性を有することから、アルツハイマー病改善薬の有望な候補として期待されています。しかし一方においてHupAはパクリタキセルと同様、現在その供給法に課題を残しています。これまで確立されているHupA供給法は、H. serrataより精製したHupA前駆体からの半合成が主なルートです。しかしながら、H. serrataは成長が非常に遅いことから同植物が近い将来絶滅することが危惧されており、すでに中国の雲南省ではH. serrataの減少が進んでいるという報告がされています。有機化学合成的な手法もまだ問題解決には至っていないのが現状です。私たちはHupAの供給問題を上記した戦略により解決することで、植物内生糸状菌の医薬資源としての有用性を示すことを目指し研究を進めています。
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