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研究・社会貢献
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学術フロンティア推進事業 研究インタビュー


がんの病態解明と新規治療薬の開発をめざす
- 薬学研究所における研究紹介 -

小児癌(がん)のうち、神経芽腫をはじめ、ユーイング肉腫、骨肉腫など、難治性のがんが発症するメカニズムを分子レベルで明らかにし、効果のある新規治療薬の開発研究に取り組んでいるのが薬学部臨床医学ユニットの鈴木孝教授だ。 医師であり薬剤師でもある鈴木先生は、臨床経験も豊富で、数多くの小児がん患者さんも診て来た。 だからこそ“本当に必要とされる薬を生み出して、かけがえのない命を救いたい”との思いが強い。研究内容と今後の課題など尋ねてみた。

子どもの悲劇をなくすため、悪性腫瘍を良性にできないか

Q. 鈴木先生が神経芽腫など小児がんの治療薬を研究するに至った経緯を教えてください。

私はかつて日本大学医学部附属板橋病院小児科などで、多くの小児がん患者さんを診てきました。
今も研究活動のかたわら特定の患者さんをサポートし続けています。これまで、重い病気にかかった子どもや家族の苦しむ姿を目の当たりにしてきました。例えば、小児がんの中でも神経芽腫はその約10%を占め、早ければ1歳未満で発症します。その進行症例は化学療法や外科手術などの治療を受けても、5年後の生存率は約30%という悪性腫瘍です。最近では基礎や臨床の研究が進んで、がんは治りやすくはなっています。 
しかし、神経芽腫のように抗がん剤や放射線治療、外科的治療など集学的治療を施しても、しぶとく抵抗する悪性腫瘍があるのです。
また、抗がん剤など強い薬による化学療法を何年も続けていると副作用が出現してきます。晩期障害といって、身長が伸びないとか、生殖機能や腎機能に障害を持つ例も多く、従って、長年この晩期障害のために苦しむ患者さんもいます。そうした患者さんと接するうちに、親より先に子どもが死ぬ悲劇をなくしたい、かつ予後(病後の経過)を良くしたいという思いが強くなりました。何とか新しいがん治療のアプローチ方法はないかと、本格的に研究を始めたのです。

Q. 日本大学薬学研究所は平成14年(2002年)に学術フロンティア推進事業の選定を受けましたが、研究テーマのうちの一つが鈴木先生主導による研究なのですね。

そうです。これまでの治療は腫瘍細胞を抗がん剤でたたき、腫瘍を小さくさせた時点で取り除く、あるいは放射線照射などを行ってきました。しかし、神経芽腫などは正確にターゲット(標的)を定めた治療を行わないと治癒が難しい。
そこで新しいアプローチとしてがん細胞で起きている細胞の異常に注目しました。この異常を修復する化合物を見つけ出すことで、がん細胞を正常な機能が回復した良性の腫瘍(いわゆる“イボ”)のようにしてしまう、腫瘍があったとしても増殖や移転しなければ良いわけで、壊すというより共存できないかという発想で研究を始めたのです。
研究の結果、神経成長因子(NGF)に対応する「trk-A(トラック‐A)」というNGFの受容体が神経芽腫の進行に重要な働きをしていることが分かりました。これはNGFの指令(シグナル)を細胞外で受け取る受容体で、そのシグナルを細胞内に伝えて細胞の分化に関係します。その受容体が異常をきたすとシグナルが伝わらず、腫瘍は未分化のままで増殖してしまう。
それなら途中の伝達機能に異常のある部分を修復すれば、神経芽腫を治せるのではないかと着目。実験を通して受容体のリン酸化を保護することが重要であることを突き止め、リン酸化を保護する化合物の利用を考え出しました。
この化合物を一定の条件で作用させたところ、シグナルは増強され、細胞の分化誘導まで結びつけることに成功。これを一つの成果として、2003年に日本大学の産官学連携知財センター(Nubic)を通して特許取得に結びつきました。ただし、分化誘導効果は認められたものの、細胞を壊してしまうような強い効き目を求める製薬会社の薬には採用されませんでした。


分化誘導と細胞死双方の観点から、
植物から抽出した化合物の製薬化にも着手

Q. こうした研究を基礎に、近年はどのような研究を行っているのでしょう?

正常な細胞には、細胞の分化を促進して高度な機能を持つ成熟した細胞へと変化させる「分化誘導」という細胞内シグナル伝達機構と、もう一つ、不要な細胞や有害な細胞を死滅させる「アポトーシス誘導」というメカニズムが備わっています。
アポトーシスとは俗に「細胞死」と言われるもの。例えば人の指の間には胎児の時にエラ(水かき)があるのですが、それは生まれた時には不必要なものとして自然に消退してしまいます。だったら同じようにがん細胞を消退させられないだろうかと考えたのです。ただし、がん細胞はこれらのメカニズムに異常をきたしているため細胞が未分化のまま際限なく増殖してしまう。
この異常を修復すべく、私は神経芽腫の細胞培養株に天然物(主に自然の植物)からの抽出物やシグナルを正常化する可能性のある合成化合物などを作用させて、がん細胞に分化誘導やアポトーシス誘導を促す新薬の開発を試みています。
例えば理工学部の秋久俊博教授との共同研究により、構造決定した化合物が生理活性物質として本当に神経芽腫に効くのかどうかを実験しています。
近年はアシタバという植物の茎から抽出した『キタントアンゲロール』という成分がアポトーシス誘導に効果的であること、さらに、本学部の内山武人専任講師、安川憲教授との共同研究で、ブラジル産センダン科の植物や良姜(りょうきょう)という植物からも同様の効果を持つ化合物が含まれていることを発見しました。
これらの新規化合物もNubicを通じて特許申請をしました。このような植物から抽出した化合物の治療効果が確認されれば、早期に動物実験を経て臨床応用に展開していくつもりです。

Q. 今後の課題はどんなことになりますか。

神経芽腫に限らず、遺伝子が傷つき、その積み重ねによって多くのがん細胞が細胞内の重要な伝達機構に何らかの異常を来たしています。現在、この異常の検索を骨・軟部組織から発生するユーイング肉腫、骨から発生する骨肉腫、さらに、白人に多い悪性黒色腫などにも拡大して研究を進めているところです。ユーイング肉腫には正常な遺伝子が転座して新たに形成される融合(キメラ)遺伝子が認められ、それががんの発生に関与します。

そこでこのキメラ遺伝子に対応するRNAを細胞内に入れて、このキメラ遺伝子を発現させないようにする研究も進めています。さらに、白血病や悪性黒色腫は、秋久教授との共同研究によりニーム種子由来成分ががん細胞に対して、細胞障害活性があることも分かってきており、これも特許申請をしています。予後が不良なこれらの悪性腫瘍に神経芽腫で見つかった治療薬を広く応用できればいいし、あらゆる角度から試行錯誤してよりピンポイントで作用する治療薬をぜひ開発したいですね。

Q. 最後に学生または外部の方にメッセージを

新規治療薬は製薬会社に認められてはじめて治療薬に一歩近づきますが、目標はあくまでその先の病気で苦しんでいる患者さんのためになる化合物(薬)を開発することにあります。臨床の場で使われることが私の最大の願いです。
また、作用の強い薬はその時に効いて治ったとしても、次世代に同じ病気で苦しむ子どもが生まれては何にもならないわけで、副作用が少なく、より効果的でなければなりません。その視点を失わずにこれからも研究を続けていくつもりです。
薬学部は6年制に移行すると学ぶべきことは多くなりますが、学生には薬自体の知識はもちろんですが、病気自体を良く知って、「人のために」という意識を強く持って欲しいと願って授業を行っています。
また、薬学部薬学研究所は、医学部、歯学部、松戸歯学部、理工学部、文理学部、生物資源科学部などの研究室とも共同研究を積極的に進めています。そうした医学や化学とスムーズに学際を越えた他学部と連携できるのも総合大学である日本大学ならではでしょう。今後も専門の壁を越えて協力し合い、「がんの克服」に向けて教員・学生が一体となって努力していければ良いと思います。

プロフィール

鈴木 孝
日本大学薬学部教授

1976年日本大学理工学部薬学科卒。84年同医学部卒。一般病院や日本大学医学部附属板橋病院小児科勤務、米国ロサンゼルス小児病院血液腫瘍科ポストドクトル・フェローシップ、日本大学医学部小児科講師を経て、2002年より同薬学部臨床医学ユニット教授。

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