科研費 CaseStudy 2
銅の生体における役割について
衛生化学ユニット 渡邉雅紀
微量栄養素である銅は、核内の特定の機能に必要だった。
我々のグループでは、微量栄養素の一つである銅の生体における役割について、分子栄養学的な観点から研究を行っています。銅は全ての生物の生存に欠かすことのできない必須微量元素で、銅要求酵素(例えば、cytochrome c oxidase、superoxide dismutase-1、dopamine β-hydroxylase)の活性中心を構成して、特定の酸化還元反応を触媒する機能を持っています。一方で、遊離型の銅イオンは強い細胞毒性を示すため、細胞内での銅の動態は厳密に制御されています。生体の銅の欠乏は、特に胎児期や新生児期に重大な影響を及ぼすことが知られています。
我々は、これらの銅欠乏の影響を細胞レベルあるいは分子レベルで解明する目的で、培養細胞を用いた銅の欠乏実験を行いました。銅は脳に多く存在していることや、銅欠乏は神経障害を引き起こすことが知られていることから、神経発生における銅の役割について解析しました。その結果、銅は、神経細胞に分化するP19マウス胚性腫瘍細胞の分化に必要な因子であることを明らかにし、さらに、分化誘導剤であるレチノイン酸の核内受容体を介した遺伝子発現制御に関与していることを見出しました。
この解析結果ならびに銅が細胞の核内に存在していることから推察すると、銅は核内で特定のタンパク質と結合し、生物学的機能を担っている可能性が考えられます。すなわち、核内の銅結合タンパク質(酵素)の存在が示唆されます。そこで、マウス脳の核タンパク質から、銅と高親和性を示すタンパク質を精製し、その同定を行いました
我々は、これらの銅欠乏の影響を細胞レベルあるいは分子レベルで解明する目的で、培養細胞を用いた銅の欠乏実験を行いました。銅は脳に多く存在していることや、銅欠乏は神経障害を引き起こすことが知られていることから、神経発生における銅の役割について解析しました。その結果、銅は、神経細胞に分化するP19マウス胚性腫瘍細胞の分化に必要な因子であることを明らかにし、さらに、分化誘導剤であるレチノイン酸の核内受容体を介した遺伝子発現制御に関与していることを見出しました。
この解析結果ならびに銅が細胞の核内に存在していることから推察すると、銅は核内で特定のタンパク質と結合し、生物学的機能を担っている可能性が考えられます。すなわち、核内の銅結合タンパク質(酵素)の存在が示唆されます。そこで、マウス脳の核タンパク質から、銅と高親和性を示すタンパク質を精製し、その同定を行いました
図1. P19細胞の神経分化には銅が必要である
上の段の写真は、細胞の位相差像
下の段の写真は、ニューロンのマーカータンパク室を蛍光染色したもの
(緑色に染色された細胞がニューロン)
★銅が欠乏したP19細胞では、ニューロンに分化しないことがわかる。
その結果、核に局在することが知られている2つのタンパク質を同定することが出来ました。また、これらのタンパク質が、生理的条件下においても銅と結合していることを確認しました。さらには、レチノイン酸受容体を介した遺伝子発現制御に必要な転写共役因子であることを見いだすとともに、この機能の発現には銅が必要であることを明らかにしました。
本研究では、細胞内の銅の欠乏により生ずる表現型を基に解析を行って、最終的には、核内で銅を補因子とするタンパク質の存在を示すことが出来ました。
これまでのところ、銅の核内への輸送機構はほとんど解明されていません。しかし、核内の銅結合タンパク質の存在は、核内へ銅を輸送する特異的な経路が存在する可能性を示唆しています。今後は、銅の核内輸送経路を明らかにしていき、核に存在する銅の役割のみならず、その動態について分子レベルで解明していく予定です。
本研究では、細胞内の銅の欠乏により生ずる表現型を基に解析を行って、最終的には、核内で銅を補因子とするタンパク質の存在を示すことが出来ました。
これまでのところ、銅の核内への輸送機構はほとんど解明されていません。しかし、核内の銅結合タンパク質の存在は、核内へ銅を輸送する特異的な経路が存在する可能性を示唆しています。今後は、銅の核内輸送経路を明らかにしていき、核に存在する銅の役割のみならず、その動態について分子レベルで解明していく予定です。
図2. 核内銅結合タンパク質の役割