科研費 CaseStudy 3
欧米型食生活による大腸疾患の発症リスク
環境衛生学ユニット 加藤孝一
精神的ストレスや暴飲暴食などから大腸内環境が変化し、知らぬ間に大腸局所に炎症が起きています。
また、わが国では大腸がん患者が急増し、2003年より女性のがんによる死因の第一位になっています。一方、潰瘍性大腸炎は、原因不明の免疫機能の破たんから生じる難治性の炎症性疾患です。近年、その患者数は急増し(図1)、比較的若年での発症が多く、社会に与える影響が懸念されています。
また、この病気にかかっている期間が10年を超えると大腸がんへ進行することが明らかになり、早急な予防対策が望まれています。
また、わが国では大腸がん患者が急増し、2003年より女性のがんによる死因の第一位になっています。一方、潰瘍性大腸炎は、原因不明の免疫機能の破たんから生じる難治性の炎症性疾患です。近年、その患者数は急増し(図1)、比較的若年での発症が多く、社会に与える影響が懸念されています。
また、この病気にかかっている期間が10年を超えると大腸がんへ進行することが明らかになり、早急な予防対策が望まれています。
図1. 潰瘍性大腸炎罹患者数
1973年より現・厚生労働省の特定疾患治療研究対象疾患(難病)に指定されて以来、患者数の増加が認められ、平成18年度の特定疾患医療受給者証交付件数は90,627名(難病情報センター、平成19年3月31日現在)です。
1973年より現・厚生労働省の特定疾患治療研究対象疾患(難病)に指定されて以来、患者数の増加が認められ、平成18年度の特定疾患医療受給者証交付件数は90,627名(難病情報センター、平成19年3月31日現在)です。
潰瘍性大腸炎は、発展途上国と比較して欧米の先進国での罹患率が高く、ライフスタイルや食生活といった環境因子がその要因と考えられ、日本での患者数の増加は食肉摂取過多などの食の欧米化に起因すると考えられます。
そこで、我々の研究グループは食肉成分に由来する新規の炎症促進物質に注目し、研究を進めてきました。
そこで、我々の研究グループは食肉成分に由来する新規の炎症促進物質に注目し、研究を進めてきました。
図2. 食肉に由来するクロラミン類の生体内生成と大腸炎悪化の機序
大腸炎症局所に浸潤した好中球は、NADPHオキシダーゼにより酵素分子(O2)からスーパーオキシド(O2-)を産生、次いでSODにより過酸化水素、さらにはMPOの作用により次亜塩素酸を産生します。次亜塩素酸はクレアチニン由来のメチルアミンと反応しメチルアミンクロラミンを生じる。これが炎症を悪化することを明らかにしました。
SOD:スーパーオキシドジスムターゼ / MPO:ミエロパーオキシダーゼ
大腸炎症局所に浸潤した好中球は、NADPHオキシダーゼにより酵素分子(O2)からスーパーオキシド(O2-)を産生、次いでSODにより過酸化水素、さらにはMPOの作用により次亜塩素酸を産生します。次亜塩素酸はクレアチニン由来のメチルアミンと反応しメチルアミンクロラミンを生じる。これが炎症を悪化することを明らかにしました。
SOD:スーパーオキシドジスムターゼ / MPO:ミエロパーオキシダーゼ
その結果、食肉中のクレアチニンというアミノ酸の一種は潰瘍性大腸炎のモデル動物の炎症を悪化すること、さらに、図2に示すように、大腸の炎症局所に浸潤した好中球(白血球の一種で細菌を殺す免疫機能を持つ)が産生する次亜塩素酸とクレアチニン由来のメチルアミンとの反応で生成するメチルアミンクロラミンによることを明らかにしました。日本の食事の欧米化による肥満が生活習慣病のリスクファクターであることは広く知られていますが、その詳細は不明な点が多く残されています。本研究から、食事の要因(化学成分)より生成する内因性物質が近年急増する炎症性疾患に大きく関与する新しい知見を得ました。現在、さらなる展開として、慢性炎症による大腸がんの発生上昇の解明と予防策を視野に入れた研究を進めています。