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研究・社会貢献

科研費 CaseStudy 9


薬が脳に到達するメカニズムの解明に挑戦

薬剤学研究室 准教授 鈴木豊史

脳を守るため、生体に備わった重要な仕組み

薬は“諸刃の剣(もろはのつるぎ)”と言われます。つまり、一方では大きな治療効果が期待できる「主作用」がありますが、他方では必ずしも望ましくない症状を引き起こす「副作用」もあるということです。また、薬と毒は表裏一体であり、どんなに優れた効き目がある薬でも使用法や服用量を一歩間違えば、毒になり得ます。しかし、そう簡単に薬や毒が脳のなかに入ってしまっては困ります。私たちの脳には、血液の中に流れ込んできた薬(体から見れば異物)の侵入を制限する、防壁(バリア)が備わっています。このバリアは、脳のなかの細い血管を形成している内皮細胞膜同士がぴったり接着したような構造をしているので、血液の中に流れ込んできた薬が、この細胞の隙間(すきま)を通り抜けて、脳のなかに侵入することはできません。したがって、このバリアは、生体の情動をコントロールしている脳の細胞を守るための役割を担っています。

脳組織への薬物の分布は制限されている

このバリア(Barrier)は、血液(Blood)と脳(Brain)との間を隔てる血液-脳関門(Blood-Brain Barrier)と呼ばれています。しかし、脳に入ってくる全ての物質をこのバリアは完全にブロックするわけではありません。脳が働くために必要な糖、アミノ酸やビタミンの一部などの栄養素は、血液脳関門にある優先的な抜け道ルート(トランスポーター)を巧みに利用して脳まで到達できるようになっています。また、脳の中で使われて不要となった老廃物は、血液脳関門にある汲み出しポンプ(トランスポーター)によって血液中に掃き出されます。このように、血液脳関門は物質の出入りを完全に制限しているわけではなく、物質の種類によって出入りを許可するような、物質選択性をもったセキュリティシステムの役目を果たしています(図1)。現在、このセキュリティシステムを司る血液脳関門の全容を解き明かすため、多くの研究が世界中で展開されています。

図1 血液脳関門の概略
血液脳関門の実体は無窓性(つなぎ目のない)の筒(チューブ)状に連結された血管内皮細胞から主に構成されている。ヒトの脳毛細血管の細胞内容積は、全脳容積のわずか0.1-0.2%であるが、血管の全長は600Kmもあり、脳内を綱目状に分布している。

中枢神経疾患に有効な薬剤の脳への送達を目指して

脳の毛細血管内皮細胞や実験動物を利用した多くの研究から、この血液脳関門の脳側と血液側に局在しているトランスポーターの構造やその輸送特性(方向性、速度、物質選択性、親和性など)が、最近ようやくわかってきたところです。そのため、この輸送特性が中枢神経系の疾患の発症あるいは進展段階に、どのように関連しているのか?どのように機能的な変化をしているのか?など、病気の治療や予防に応用するためには不明な点も数多く残されているのが現状です。
そこで私たちは、中枢神経疾患に対する血液脳関門システムの適応性あるいは応答性を明らかにするため、臨床病態を極めて良く反映するような病態マウスを作製し、トランスポーターの物質輸送能にどのような変動が見られるのか、そしてある特定の障害を与えた細胞においてこの変動が実証できるかなどの研究を進めています。現在までに、パーキンソン病や脳虚血などの神経変性疾患時における血液脳関門輸送特性に関する新知見が得られています。また、老化にともなう神経変性疾患発症の予防や進展を遅らせるような物質に、メカノケミカル反応によるナノ粒子化技術を応用し、血液脳関門にある輸送システムを利用できるかどうかを探索する研究も展開しています。このような物質を脳の中に効率よく送達する手がかりが見つかれば、アルツハイマー病のような根本的な治療法が確立していない疾患に対する薬物治療も夢ではありません。
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