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研究・社会貢献

科研費 CaseStudy13


新規脳保護薬の探索とその保護メカニズム

薬理学研究室 教授 石毛久美子
一般に脳卒中と呼ばれる脳血管疾患は、虚血性障害である脳梗塞や出血性障害である頭蓋内出血を含みます。以前は、我が国において、死亡原因の第1位であった脳血管疾患は急性期の治療法の進歩などにより、死亡率が徐々に低下し、現在ではガン、心臓疾患についで第3位となりました。しかし、患者数が減少したわけではなく、入院、通院中の患者をあわせると150万人以上になると推定され、今なお増加傾向にあると考えられています。また、麻痺、言語障害、認知機能障害などの後遺症に苦しんでいる患者も多く、寝たきりを含め要介護状態に陥る原因疾患の第1位を占めています。超高齢化社会を迎える我が国においては、脳血管疾患の発症率がさらに増加すること、また、それに伴って後遺症に苦しむ患者数および要介護者も増加することが予想されています。したがって、脳血管障害治療においては、救命率を今より上昇させることに加え、今後は、「命を救われた患者の後遺症をいかに軽減するか」が重要なポイントになると考えられます。
脳血管疾患の内訳を見ると、近年は、脳梗塞の割合が増加し、全体の6割以上を占めるようになっています。脳梗塞の治療において、血流の再開は不可欠ですが、この血流再開により、活性酸素種(ROS)が急激に増加し、これにより障害が助長されること、すなわち、再灌流障害を誘発することが明らかにされ、このことが、少なからず、後遺症にも関与すると考えられるようになりました。
これに対し、我が国では、脳梗塞の急性期治療の1つとしてエダラボン投与による脳神経保護療法が行われ、一部の患者では後遺症の軽減にも寄与しているものと考えられます。エダラボンは、現在、脳神経保護療法に用いられる唯一のラジカルスカベンジャーですが、副作用(重篤な腎障害など)のために使用できない患者や、使用しても無効であった症例も多く報告されているため、後遺症に苦しむ患者を1人でも少なくするために、新たな脳保護薬の開発が必要であると考えられます。これまで、私たちのグループでは、再灌流障害に対する保護物質の探索を行い、GR103691に培養細胞(in vitro)モデルだけでなく、マウス(in vivo)モデルにおいても、エダラボンと同程度の活性のあることを見出しました。GR103691は、すでに試薬として購入可能なものですが、このような作用は報告されていませんでした。そこで、この化合物を出発化合物として、より有効な治療薬候補物質を探索とそのメカニズムの検討を目的とした研究を遂行中です。新規脳保護薬の開発に寄与することは、学術的に意味があるだけではなく、社会的にも意義のあるものと考えています。

脳虚血 - 再潜流障害とフリーラジカル:虚血 - 再潜流障害の原因の1つにフリーラジカルの過剰発生が考えられている。エダラボンは、フリーラジカルを消去して障害を軽減する。

HT22細胞における低酸素 - 再酸素化による細胞死:HT22細胞を低酸素処理後再酸素化する(脳梗塞のin vitro モデル)と死細胞(PI/Hoechstで赤く見える)が認められるようになる。

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