科研費 CaseStudy15
肝臓AhRによるエネルギー代謝調節機構
健康衛生学研究室 助教 和田平
近年、我が国においてもライフスタイルの変化に伴い、糖尿病、脂質異常症および高血圧などのいわゆる生活習慣病の病態を呈する人口が増加し、深刻な社会問題となっています。これらの生活習慣病は、それぞれ単独においては軽度であっても集積することにより動脈硬化症などの心疾患の発症・進展のリスクを著しく増加させ、現在ではそのような状態を“メタボリックシンドローム“と定義しています。メタボリックシンドローム発症要因は食事由来の脂肪の過剰摂取ならびに近代化に伴う運動不足など多種多様であるが、環境汚染物質の長期曝露もそのひとつであると考えられています。これまでの疫学調査より、ダイオキシン類への曝露がメタボリックシンドローム発症のリスクファクターであることが示され、事実、ダイオキシン曝露者は健常人と比較して血糖値が1.4倍、糖尿病発症率は2.3倍、さらには血中インスリン値においては3.4倍の高値を示し、ダイオキシン類曝露によるインスリン抵抗性の誘発が疫学的に示されています。 ダイオキシンは、細胞内においてArylhydrocarbon receptor (AhR)と呼ばれる特異的な受容体と結合し、薬物代謝酵素などの遺伝子の発現を修飾することにより毒性を示すことが知られています。 環境汚染物質として知られているダイオキシン類が示す毒性作用として肝障害、生殖毒性、催奇形性および発がん性などが報告されています。これらのダイオキシン類が示す毒性のすべてではないにしろほとんどにおいてAhR遺伝子を欠損させたマウスにおいて耐性を示すことから、AhRはダイオキシン類が示す毒性の発現に深く関与していると考えられています。また近年、多くの研究によりAhRの機能は薬物代謝制御のみならず、糖・脂質代謝制御にも関与していることが示唆されています。
これらの疫学調査及び実験結果報告から、AhRはメタボリックシンドローム発症に深く関与していることが考えられます。そこで我々は、肝臓におけるAhRの脂質代謝制御メカニズムを明らかにする目的で、肝臓でのみ特異的にAhR遺伝子を欠損させたマウスを作製し、野生型マウスと比較することで肝臓AhRの新たな役割の解明を行ってきました。その結果、脂肪組織から分泌される摂食抑制ホルモンであるレプチン量は肝臓AhRにより抑制的な制御を受けていることを明らかにしました。
これらの疫学調査及び実験結果報告から、AhRはメタボリックシンドローム発症に深く関与していることが考えられます。そこで我々は、肝臓におけるAhRの脂質代謝制御メカニズムを明らかにする目的で、肝臓でのみ特異的にAhR遺伝子を欠損させたマウスを作製し、野生型マウスと比較することで肝臓AhRの新たな役割の解明を行ってきました。その結果、脂肪組織から分泌される摂食抑制ホルモンであるレプチン量は肝臓AhRにより抑制的な制御を受けていることを明らかにしました。
図1. 肝臓由来の液性因子Xを介した
摂食調節機構
図1に示すように、レプチンは脂肪組織から特異的に分泌さるホルモンであり、脳の視床下部にある摂食中枢に作用して食事量の減少および体重増加率を制御しています。そこで我々は肝臓AhRの食事摂取量及び体重増加率に及ぼす影響を検討したところ、 肝臓AhRは食事摂食量の増加を介して体重調節に密接に関与していることを明らかにしました。これまでのところ、肝臓に発現している遺伝子によるレプチン量の調節メカニズムはほとんど解明されていません。
このように肝臓AhRが遠隔に位置する脂肪組織由来の摂食ホルモンであるレプチンの発現量および分泌量を制御していることは衛生化学的見地のみならず内分泌学的見地からも非常に興味深いことであります。そこで、本研究では肝臓AhRに全身エネルギー代謝制御メカニズムを解明し、今後増加することが懸念されるメタボリックシンドロームやその構成要因である肥満、糖尿病および脂質異常症などの発症メカニズムの解明および新規治療薬の開発の基盤の確立を目指して研究を進めています。
このように肝臓AhRが遠隔に位置する脂肪組織由来の摂食ホルモンであるレプチンの発現量および分泌量を制御していることは衛生化学的見地のみならず内分泌学的見地からも非常に興味深いことであります。そこで、本研究では肝臓AhRに全身エネルギー代謝制御メカニズムを解明し、今後増加することが懸念されるメタボリックシンドロームやその構成要因である肥満、糖尿病および脂質異常症などの発症メカニズムの解明および新規治療薬の開発の基盤の確立を目指して研究を進めています。