科研費 CaseStudy17
アゾール系薬剤耐性病原真菌の地理的分布の地理的分布の現状と将来予測
分子細胞生物学研究室 助教 廣瀬大
意外と分かっていない自然環境における病原菌の分布
図1. Aspergillus fumigatus の顕微鏡像
カビやキノコに代表される真菌は、菌糸もしくは酵母として生活する従属栄養微生物です。真菌の中にはヒトに病原性を示す種が数多く知られています。真菌が原因となる感染症のうち深在性真菌症とよばれる感染症は、ヒトの組織内に侵入して感染を引き起こし重篤化します。深在性真菌症の一つであるアスペルギルス症は、特に免疫不全患者における死亡率が極めて高いため、世界中の臨床現場において重大な脅威であり続けています。加えて、近年発生率が上昇する傾向にあり、最も重要な深在性真菌症の一つであるとされています。アスペルギルス症の原因菌としては、Aspergillus属(和名:コウジカビ属)に属するA. fumigatus、A. flavus、A. nigerなどが知られていますが、中でもA. fumigatus (図1) が最も重要な種として認識されています。本研究では主にこの種を研究材料とし野外環境における分布様式に関する研究を進めています。
病原真菌を研究対象とする医真菌学の分野では感染機序や診断法(検査法)、化学療法など応用研究を中心に多くの研究成果が蓄積されてきました。一方で、病原真菌の多くは土壌や植物遺体など野外の自然環境を主たる生息場所にしている日和見感染菌であるにも関わらず、野外環境における分布や生活様式に関しては殆ど研究が行われてきませんでした。Aspergillus属に関しても、その例外ではありません。本研究では、多様な気候帯を有する日本国内においてA. fumigatusがどの様な土壌環境にどれ位分布しているかを地理的な空間スケールで明らかにすることを目的として調査を行っています。
これまでに、限られた地域内に標高傾度に沿って異なる気候帯がある日本アルプスをフィールドとした分布調査を行いました。病原性のあるAspergillus属の多くはヒトの体温域を含む30-40℃くらいを好む好温菌であるため、比較的暖温な地域で多く分布していると考えられてきました。しかし、日本アルプスでの調査の結果、標高2600mを超える高山帯においても高頻度で分布していることが分かってきました(図2)。
病原真菌を研究対象とする医真菌学の分野では感染機序や診断法(検査法)、化学療法など応用研究を中心に多くの研究成果が蓄積されてきました。一方で、病原真菌の多くは土壌や植物遺体など野外の自然環境を主たる生息場所にしている日和見感染菌であるにも関わらず、野外環境における分布や生活様式に関しては殆ど研究が行われてきませんでした。Aspergillus属に関しても、その例外ではありません。本研究では、多様な気候帯を有する日本国内においてA. fumigatusがどの様な土壌環境にどれ位分布しているかを地理的な空間スケールで明らかにすることを目的として調査を行っています。
これまでに、限られた地域内に標高傾度に沿って異なる気候帯がある日本アルプスをフィールドとした分布調査を行いました。病原性のあるAspergillus属の多くはヒトの体温域を含む30-40℃くらいを好む好温菌であるため、比較的暖温な地域で多く分布していると考えられてきました。しかし、日本アルプスでの調査の結果、標高2600mを超える高山帯においても高頻度で分布していることが分かってきました(図2)。
図2. 中央アルプスの西駒ケ岳と北アルプスの乗鞍岳におけるAspergillus fumigatusの出現頻度の標高間比較
薬剤耐性菌の分布の形成プロセスを理解し、将来を予測する
近年、A. fumigatusにおいて、真菌の細胞膜成分であるエルゴステロールの合成を阻害するアゾール系抗真菌薬のイトラコナゾールやボリコナゾールに耐性のある株がヨーロッパ各地において発見されました。この様な状況から、主に臨床における疫学的研究や薬剤耐性獲得のメカニズムに関する研究がヨーロッパを中心に盛んに行われています。薬剤耐性株は、臨床におけるアゾール系薬剤や野外環境における農薬(殺菌剤)の曝露により生じたと考えられていますが、野外環境も含めた体系的な分布調査が殆ど行われていないのが現状であります。
耐性株の存在は日本国内でも確認されていることから、野外環境も含めた体系的な分布調査を行うことで現状を把握することは緊急に必要であると考えられます。そこで本研究では耐性株の地理的な空間スケールでの分布の調査を、臨床だけでなく農耕地や森林といった野外環境も対象として行っています。さらに、予防医学の観点からは耐性株の分布に関する将来予測が必要であると考えられますが、そのためには現在の分布がどの様に形成されたかというプロセスを明らかにする必要があります。分布の形成プロセスは、生物集団中の遺伝的変異の動態を研究する集団遺伝学の解析手法を用いることにより推測することが可能です。本研究では、上記の分布調査に加えて、分離培養した真菌のDNAレベルでの遺伝的変異を明らかにし、集団遺伝学的解析を行うことにより最終的に耐性株の拡散のリスク評価を行うことを目指しています。
耐性株の存在は日本国内でも確認されていることから、野外環境も含めた体系的な分布調査を行うことで現状を把握することは緊急に必要であると考えられます。そこで本研究では耐性株の地理的な空間スケールでの分布の調査を、臨床だけでなく農耕地や森林といった野外環境も対象として行っています。さらに、予防医学の観点からは耐性株の分布に関する将来予測が必要であると考えられますが、そのためには現在の分布がどの様に形成されたかというプロセスを明らかにする必要があります。分布の形成プロセスは、生物集団中の遺伝的変異の動態を研究する集団遺伝学の解析手法を用いることにより推測することが可能です。本研究では、上記の分布調査に加えて、分離培養した真菌のDNAレベルでの遺伝的変異を明らかにし、集団遺伝学的解析を行うことにより最終的に耐性株の拡散のリスク評価を行うことを目指しています。