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研究・社会貢献

科研費 CaseStudy20


脂肪細胞機能を調節する天然薬物の研究

生薬学研究室 教授 北中進

研究の背景

日本人の死因はガン、脳血管障害、心臓疾患で約60%を占めており、その観点からも脳血管障害、心臓疾患の原因となる動脈硬化を予防することが重要である。この発症に大きく関与している「メタボリックシンドローム」は、内臓脂肪蓄積が根底にあり、これに脂質代謝異常、糖代謝異常(糖尿病)、高血圧症などが加わった合併症として捉えられ、脳血管障害や心疾患の危険率を飛躍的に高くする。また肥満では脂肪組織において軽い慢性的な炎症が誘導されて、インスリン抵抗性にも大きく関与し高血糖に誘導されやすくなる。

生活習慣病として代表的な糖尿病、高血圧、脂質代謝異常やガンは、加齢と共に増加する疾病で、これらの難治性疾患の発症を抑制する薬物の開発が望まれる。近年、脂肪細胞はエネルギー代謝に関わる中性脂肪を蓄積するという働き以外に、各種の生理活性タンパク質を分泌することが明らかになってきた。脂肪細胞は、脂肪蓄積の度合により小型脂肪細胞(善玉)と肥満者に見られる大型脂肪細胞(悪玉)に大別でき、分泌するタンパク質の組成が異なっている。小型脂肪細胞は、インスリンの感受性を高めて血管の炎症を抑え動脈硬化や心臓肥大を抑制するアディポネクチンや食欲を抑制するレプチンを分泌する。これに対して、中性脂肪を多量に蓄積した大型脂肪細胞は、インスリン抵抗性を惹起するTNF-αやレジスチンを分泌し、更に血液凝固の促進や血圧をあげるタンパク質を分泌して体に悪影響を及ぼす。また肥満の脂肪組織には白血球の一種であるマクロファージが多量に浸潤してきて、大型脂肪細胞と相互に活性化して慢性の炎症状態を引き起こしている。

研究の概要

研究室では、老化に関わる難治性疾患の予防・改善を目指した天然薬物の開発を行っている。その一つとして試験管内で培養した脂肪前駆細胞を用い、この細胞が脂肪細胞へ分化するのを抑制または促進する作用を持つ生薬や含有成分について研究を進めてきた。例えば脂肪前駆細胞の分化を抑制する化合物はダイエット効果が期待できる。また逆に分化を促進し小型脂肪細胞を誘導する化合物にはアディポネクチンの分泌が期待され、インスリン感受性を高めて糖尿病を改善すると共に動脈硬化や心臓肥大を抑制することが考えられる。更にエネルギー代謝が高まることからダイエット効果も期待できる。これまでの研究でマリアアザミ種子や白桃花に脂肪前駆細胞の分化を促進させ、アディポネクチンの分泌を亢進することを確認している。この結果はこれらの生薬が経験的にダイエット効果があると言われる結果と合い興味深い。そこで活性を試験しながら分離していくと、一部の成分はフラボノイドの一種のフラバノノール類であり、これらの化合物にアディポネクチン分泌促進作用が見られ、別にセンチュウを用いた試験ではセンチュウの寿命延長効果が確認されるという知見が得られた。更に白桃花からはマクロファージの活性化を抑制する成分を含有している。これらの研究結果から白桃花やフラバノノール誘導体に老化と係わりある糖尿病、高血圧、脂質代謝異常、肥満症などに対して有効性を示す可能性が考えられる。

私たちの研究室では天然薬物の生薬を素材にして、老化と深い関わりのある難治性疾患の予防・改善を目指して新しい医薬リード化合物の探索を行っており、生薬学・天然物化学の立場から社会に貢献できる研究を進めていきたいと考えている。
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