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研究・社会貢献

科研費 CaseStudy21


新しい機能を有する糖質素材開発のための基礎研究

有機化学研究室 准教授 内山武人

本研究の目的

糖質は、地球上の生物にとってエネルギー源であるとともに、機能性分子として重要な役割を果たしていることが知られています。例えば、インフルエンザウイルスがヒトに感染する際、最初に出会う分子は「シアル酸」といわれる酸性糖ですし、エイズウイルスの表面は「D-マンノース」という糖を多く含む糖鎖に覆われています。また、真偽のほどは別にして、日本人の好きな性格判断に用いられるABO式血液型は、抗原分子中の糖鎖構造のわずかな違いに基づきます。一方、糖質は甘味料としても我々の生活に深く関わっていますが、ある種の糖質は苦味をもつことも知られています。

本研究は、まだその機能がよくわかっていない「1,5-アンヒドロアルジトール」と呼ばれる糖質に着目し、新しい機能を見いだすことを目的としています。

1,5-アンヒドロアルジトールとは

糖質の基本構造は、脂肪族多価アルコールの一部の水酸基がアルデヒドまたはケトンに酸化されたもので、アルデヒドを持つ糖はアルドース、ケトンを持つ糖はケトースと呼ばれます。例えば、代表的な単糖であるD-グルコース(ブドウ糖)はアルド−スであり、D-フルクトース(果糖)はケトースに分類されます。単糖の中でも五炭糖や六炭糖は、カルボニル基と水酸基との間に分子内ヘミアセタールを形成し(下図、環状アルドースの赤点線囲みの部分)、安定な環構造をとります。一方、アルドースの還元体は「アルジトール」といわれ、広い意味で糖質に含められます。よく知られているアルジトールには、ガムの商品名にもなっている「キシリトール」があります。本研究で着目している1,5-アンヒドロアルジトールの一般的な構造は下に示すように、環状アルドースの構造に似ていますが酸素原子(O)が1つない還元体です。

代表的な1,5-アンヒドロアルジトールとして、D-グルコース(D-Glc)の還元体である1,5-アンヒドロ-D-グルシトール(1,5-AG、下図参照)が挙げられます。1,5-AGは、動物・植物の組織細胞などに広く分布しており、ヒト血中における1,5-AGの濃度は血糖コントロールの状態を表わす重要な指標で糖尿病の診断にも用いられていますが、1,5-AGの生理的意義についてはよくわかっていません。最近になり、1,5-AGの甘味料としての利用価値や糖尿病治療薬のシーズとしての可能性を探る研究などが行われ、注目を浴びるようになりました。しかし、その大量供給法が確立されていないことから1,5-AGをはじめとする1,5-アンヒドロアルジトール類の研究は、ほとんどなされていないのが現状です。そこで本研究ではまず、先に我々が見いだしたグリコシレーション法(T. Uchiyama and O. Hindsgaul, Synlett, 499-501 (1996))のアイデアに基づき、アルドースを出発物質とする1,5-アンヒドロアルジトールの簡便な化学的大量調製法の確立を目指します。

将来への展望

種々のアルドースから対応する1,5-アンヒドロアルジトールを簡便に調製できるということは、類縁化合物ライブラリーの構築が容易であることを意味します。本研究により調製法が確立されると、1,5-アンヒドロアルジトール類の構造—活性相関を見据えた新規生物活性物質の探索研究が可能になるばかりでなく、構造には絶対配置の明らかな複数の不斉炭素が存在するため、医薬品合成研究における新しいキラルビルディングブロック開発への応用が期待できます。
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