グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



研究・社会貢献

科研費 CaseStudy22


皮膚の老化を遅らせることは可能か!?
- 健康な皮膚を、若々しく維持する手がかりを探る -

薬剤学研究室 准教授 鈴木豊史

「超高齢化」の加速

我が国は、今まさに世界のどの国も経験したことのない高齢化社会を迎えています(図1)。総人口が減少するなかで、総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は24.1%(2012年)に上昇し、2060年までに高齢化率は39.9%にまで上昇することが推計されています。2.5人に1人が65歳以上、4人に1人が75歳以上(図2)となり、女性の平均寿命は90年を越える社会です(図3)。超高齢化が恐ろしいほどの速度で進行していくと予測されています[1]。

図1. 世界の高齢化率の推移

「年齢」より…「見た目」より…「若々しく!」

年齢とともに諸臓器の生理機能は損なわれていきます。同一年齢でも加齢による個人差、臓器差が大きいことはよく知られています。体の中の臓器の変化や機能の低下であれば、見た目ではわかりにくいのですが、その器官が他人の目にさらされている組織であったらどうでしょうか?「皮膚の老化」は目にとまります。皮膚組織は、身体の表面を覆うことで、外部環境の変化から物理的・化学的な刺激から身体の内部を守っているため、最も疲弊が激しいのです。このような状況を踏まえ、将来的にヒトは「年齢」より、そして「見た目」より、外見をきれいに、かつ少しでも「若々しく」、いつまでも美しく保ちたい!という願望を叶えたくなるでしょう。
美肌のための治療は、意外にも増えています。1987年から2011年の間に、「美容外科」を標榜する診療所(クリニック)と病院をあわせた医療施設数は約8倍にも増加し[2]、美容皮膚科では従来の皮膚科が対応しない「シミ」・「シワ」・「たるみ」など美肌のための治療が行われています。
 年を重ねるにつれて皮膚に「シミ」・「シワ」・「たるみ」が増えることは、むしろ落ち着いた印象と大人の貫禄を醸し出す効果があるのかもしれません。その一方で、年を重ねたとしても外見や容姿がきれいに見えると、精神的にもプラスに働き、心も美しくなる効果をもたらす場合もあるでしょう。ヒトの寿命には限りがあるので、老化は避けられませんが、「皮膚の老化」を少しでも遅らせたい、「実年齢≧肌年齢」、を期待する時代が今、ここに到来しています。

図2. 75歳以上の人口推移と将来推計

図3. 日本人における平均寿命の推移

皮膚のバリアを保つ

皮膚の構造は組織学的にみると、表面に近い部分から(1)表皮、(2)真皮、(3)皮下(脂肪)組織の3層からなりたっています(図4)。(1)表皮の最も外側にある角質層は、外界からの影響が内部に及ばないように、私たちを守ってくれる障壁(バリア)としての役割を果たしています。この皮膚の表面バリアは、レンガの壁に良く例えられますが、厚さ0.02ミリ(20マイクロメートル)程度で、角質細胞同士の隙間に水分と細胞間脂質(セラミド類)が繰り返し層状に並んだ液晶構造を含んでいます。この細胞間脂質は、体内の水分が外に逃げ出さないようにする役割を果たしており、「ハリ」(艶やかさ)と「うるおい」(みずみずしさ)を保っています。さらに(2)真皮には、コラーゲンやエラスチンと呼ばれる繊維性のタンパク質およびその間を埋めているヒアルロン酸という保湿成分が働きながら、「しなやかさ」と「弾力性」、さらに「うるおい」を維持しています。

「皮膚の老化」は「光老化」により加速する

最近、「皮膚の老化」の7割が、紫外線が皮膚にあたることによる細胞の酸化であることがわかってきています。加齢による「皮膚の老化」では、皮膚の厚さや色が薄くなる方向に向かいます。太陽光に含まれる紫外線を少量でも長年にわたって浴び続ければ、皮膚の露出部では「光老化」が起こります[3]。「皮膚の老化」にプラス「光老化」が加わると、紫外線に対する防御反応として、皮膚は厚く、色も濃くなり「シミ」をつくり、コラーゲン線維は切断されエラスチン繊維が変性するために弾力を失い、皮膚の保湿成分の減少による乾燥や表皮の萎縮から「シワ」ができます。

図4. 皮膚の構造
毛・毛根、毛細血管・毛細リンパ管、汗腺・皮脂腺などの付属器官を省略したイメージ
地表に届く紫外線のうち99%が「UV-A」、残り1%が「UV-B」である。「UV-A」は表皮を通過し、真皮にまで到達するため、加齢とともに徐々に損傷された細胞が現れてくる。紫外線の影響により真皮内のコラーゲンやエラスチンが分解されたり、繊維芽細胞でコラーゲンの剛性が低下したり、すなわち、コラーゲンの現象とエラスチン繊維の乱れが進むと、皮膚の「ハリ」がなくなり「シワ」や「たるみ」など光老化の進行がはやくなる。「UV-B」は「UV-A」よりも波長が短いため、表皮までしか届かないが、その強さはUV-Aの500倍である。「UV-B」による“日焼け”は、その後「UV-A」の影響でメラニン色素を沈着させて皮膚を黒くする。

「皮膚の老化」を遅らせることはできるか?!

「皮膚の老化」、すなわち「皮膚の酸化」を遅らせるためには、生体内に存在する天然保湿成分や細胞間脂質の成分に、保湿・美白・抗シワ・抗酸化などの作用を有する物質を含有させて生体外から適用し、しかも安全な方法で皮膚に送達し、長時間留めておく必要があります。このためには、角質層のバリアを突破し、細胞間脂質を経由して、より内部に浸透させて、表皮の一番下の基底層(紫外線によって「シミ」の原因となるメラニンの産生が活発化するところ)あるいは真皮の繊維芽細胞(「ハリ」「シワ」「たるみ」など皮膚の変化に深く関係するところ)に到達させなければなりません。到達させる物質の分子サイズや分子構造、水に溶けやすく油にも溶けやすい性質など、それらの絶妙なバランスが大きく関与してきます。一方、皮膚を通り抜けてしまった物質やその物質の代謝物が皮下の毛細血管系により全身に行き渡ってしまったら、他の臓器に悪い影響を及ぼし、副作用の問題になります。皮膚組織のみで効率的な作用を示し、その後素早く分解されて体外に排出されるのが最も理想的です。これらは、ドラッグデリバリーシステムの技術を応用することで解決できるでしょう。

本研究は、科学的根拠に基づく化粧品(Evidence-based cosmetics)を重要視し、培養細胞を用いた表皮/角質層機能改善剤やシワ予防・美白剤に関する機能性素材の開発に貢献することを目指しています。最近、化粧品に「皮膚に潤いを与え、乾燥による小ジワを目立たなくする。」という新しい効能が認められました(2011年7月厚生労働省医薬食品局改正通知)。「シミ」・「シワ」・「たるみ」といった「皮膚の老化」の進行を遅らせるような機能性素材を利用し、それらを皮膚の中に効率よく送達する手がかりは、「実年齢≫肌年齢」を実現する可能性を秘めているに違いありません。

参考文献:
  1. 内閣府共生社会政策高齢社会対策、平成25(2013)年版 高齢社会白書
  2. 厚生労働省、平成23(2011)年 医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況
  3. 日本皮膚科学会ホームページ:皮膚科Q&A 第2回日焼け(別ウィンドウで開きます)
  • 資料請求
  • デジタルパンフ
  • オープンキャンパス・入試イベント