科研費 CaseStudy23
加工食品中の特定原材料の検出に適した遺伝子検査法の開発
薬品分析学研究室 准教授 張替直輝
食品の遺伝子検査
定量PCRによる食品の遺伝子量の算出
現在、食品中に含まれる特定原材料(アレルギーを起こし易く、国から表示義務が課せられている食品のこと)や遺伝子組換え食品の検出、魚や肉の種の判別など、多くの食品検査に遺伝子検査が用いられています。それらの検査の大部分で利用されているポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、特定の遺伝子を約2倍に増幅できる反応を繰返し行うことで、検査対象の遺伝子を容易に数百万〜数億倍へ増幅できます。更に、この反応に用いられる2つのプライマーは遺伝子を構成する塩基の約20個の配列情報を元に作成され、20塩基の配列の組み合わせが理論的には約1兆通り存在する中、検査対象の遺伝子に特徴的な塩基配列を特異的に認識することができます。このような原理が、PCRによる高感度で特異的な検査を可能としています。更に、このPCRによる遺伝子の増幅効率をモニタリングすることでサンプル中の遺伝子の量を算出する技術も開発され(定量PCR)、5%の混入が判定基準である遺伝子組換え食品のように量的な基準がある検査においても用いられるようになっています。
近年では、複数の遺伝子を1回の測定で同時に検査できるマルチプレックスPCRの技術や、従来1時間程度を要していた反応時間を30分程度に短縮できるファストPCR装置の開発、そして、それらの試薬や装置の低価格化など、遺伝子検査を行うことができる環境が整ってきており、今後、益々、遺伝子検査の活躍の場が広がっていくことが予測されます。
近年では、複数の遺伝子を1回の測定で同時に検査できるマルチプレックスPCRの技術や、従来1時間程度を要していた反応時間を30分程度に短縮できるファストPCR装置の開発、そして、それらの試薬や装置の低価格化など、遺伝子検査を行うことができる環境が整ってきており、今後、益々、遺伝子検査の活躍の場が広がっていくことが予測されます。
食品の遺伝子検査の問題点
無機及び有機化合物の検査に用いられる機器分析法やタンパク質の検査に用いられる免疫化学的分析法などには存在しない、測定対象を増幅できると言うPCRの特徴は、他の分析法では到達できない検出感度を可能にしています。このような特徴からPCRは、食品や微生物などの検査において、他の方法でのスクリーニング検査で陽性と判定されたサンプルに対する確定検査の位置付けで多く用いられています。従って、PCRでの検査には、どのようなサンプルに対しても、他の方法よりも優れた感度と特異性を発揮することが要求されています。しかし、加工食品のサンプルの場合、加工処理に伴う熱、圧力、電磁波照射などの物理的負荷や、酸や酵素処理などの化学的負荷によって食品中の遺伝子が劣化しているため、PCRをするために必要な遺伝子を抽出することが難しく、遺伝子が抽出できてもPCRによる検出率が低下してしまうことが知られています。その結果、我国の特定原材料の公定法の検査のように、タンパク質でスクリーニング検査を行って、その陽性のサンプルに対してPCRによる確定検査を行う場合、加工処理によるタンパク質と遺伝子の劣化の程度の違いなどから、検査結果が分かれる可能性が生じてきます。そして、実際に一部の加工食品では、タンパク質の検出では陽性で、PCRによる遺伝子の検出では陰性になったケースも報告されています。そこで、本研究では、加工処理によるサンプル中の遺伝子の劣化の詳細なメカニズムを解析し、劣化による検出率低下の改善方法の開発を目指しております。そして、これらの研究を通して、どのような食品からも高感度に検出できる遺伝子検査法を提供したいと考えております。