科研費 CaseStudy24
医薬品コクリスタルの探索を超微量の試料で行う技術の開発
薬剤学研究室 准教授 深水啓朗
研究の目的(医薬品コクリスタルとは?超微量で探索することの意義は?)
医薬品コクリスタル(cocrystal、共結晶)は、医薬品の原薬(薬効を有する主成分)と各種の添加物からなる結晶性の複合体です。詳しくは以前このコーナーで紹介しましたので、そちらもご参照ください。
私達が日常的に服用する医薬品は、薬効を有する薬の分子が秩序正しく整列した”結晶”の状態であることがほとんどです。そこに薬物以外の分子(以後カウンター分子と言います)を潜り込ませることによって、その結晶の物性を変化させることが可能です。具体的には、水に溶けにくい薬を可溶化することで生体吸収性を向上する、あるいは熱や湿度で分解しやすい薬を安定化するといった効果です(図1)。
私達が日常的に服用する医薬品は、薬効を有する薬の分子が秩序正しく整列した”結晶”の状態であることがほとんどです。そこに薬物以外の分子(以後カウンター分子と言います)を潜り込ませることによって、その結晶の物性を変化させることが可能です。具体的には、水に溶けにくい薬を可溶化することで生体吸収性を向上する、あるいは熱や湿度で分解しやすい薬を安定化するといった効果です(図1)。
図1. 代表的な難水溶性薬物であるカルバマゼピンとコハク酸からなるコクリスタルの結晶構造、ならびに主薬の溶解性が向上するメカニズム。
しかしながら、薬物分子とカウンター分子がコクリスタルを形成するには、両者の形が相補的(凸凹のように組み合わさる)であることなど、いくつかの条件が必要です。そこで、新しいコクリスタルを探すためには、1つの薬物分子に対して様々な種類のカウンター分子を様々な条件(両者の比率、溶媒、温度等々)で組み合わせる「スクリーニング」という手法が主流になっています。ところが、ここに1つ重大な問題があります。新薬として開発している薬物は、大抵の場合、合成するのに手間と時間とコストがかかること、薬効や毒性に関する試験が優先されることなどから、コクリスタルの探索に使用することのできる量は非常に限られています。薬物や製薬企業によっても状況は異なりますが、1グラムすら使用できないことがあり得ます。そこで本研究では、ナノグラム(ナノは10-9の意味)という超微量のスケールで、効率よくコクリスタルを探索できる方法の開発を目的としています。
得られる成果(超微量の試料から、新規なコクリスタルを探索することができます)
それでは具体的に、どのように超微量で探索を行うのかを図2に示します。先ず、一般的な顕微鏡観察に用いられるスライドガラスの表面を疎水化し、その上に微量の薬物溶液を滴下することで、ナノグラムスケールの微細な結晶を析出させます。その結晶を顕微ラマン分光装置という分析方法で評価することにより、超微量での探索法を検討しています。
図2. 超微量(ナノ)スクリーニング法の概念図:下の写真および図は、
カフェインのエタノール溶液(0.02mg/mL)50nLをスポットした際に析出した微細結晶と顕微ラマンスペクトル。
この方法が実用化されれば、新薬の開発過程において、これまで廃液として処理されていた、薬効試験や毒性試験に使用された残りの薬物溶液からもコクリスタルを探索することが可能です。日本が誇る「もったいない」の精神を生かす研究と言えるでしょう。
社会への貢献や波及効果(世界の人々に一刻でも早く新薬を届けたい)
近年、開発される新薬は難水溶性を示す傾向があり、服用時の生体吸収性が低下する、あるいは経管投与(錠剤を懸濁液として、チューブから直接胃腸管内に投与する方法)の際にチューブが閉塞するなどの深刻な問題が生じています。その解決策の1つとして注目される医薬品コクリスタルが本法により多数見出されれば、世界中の人々に、新薬を迅速に届けることが可能になると期待しています。