科研費 CaseStudy29
老化に関わる難治性疾患の予防・改善を目指した天然薬物の研究
生薬学研究室 教授 北中進
代表的な生活習慣病である糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満などは、主に中年期以降に発症する症候群である。またアルツハイマー病や筋委縮性側索硬化症(ALS)の神経疾患も加齢と共に増加する疾病で、満足できる薬剤がない。日本は世界第1位の長寿国であるが、健康寿命を勘案すると男性では9年、女性は12年間、自立できない生活を余儀なくされており、介護と共に財政負担が強いられる。日本人の3大死因のうち、脳血管障害、狭心症や心筋梗塞の心疾患は、動脈硬化症が深く係わっており、これらの誘発に対して「メタボリックシンドローム」が注目されている。肥満者の脂肪組織では慢性的な炎症が誘導され、インスリン抵抗性を生じて2型糖尿病を発症するリスクが高まるといわれている。特に内臓脂肪組織の脂肪細胞中に中性脂肪を蓄える度合により小型脂肪細胞(善玉脂肪細胞)と大型脂肪細胞(悪玉脂肪細胞)に区分すると、これらから分泌される生理活性を持つタンパク質が異なり体に様々な影響を及ぼす。小型脂肪細胞からは主にアディポネクチン(抗炎症作用をもち糖尿病、動脈硬化症抑制)などが分泌される。一方中性脂肪を過度に蓄えた大型脂肪細胞は、TNF-α(炎症に関与、マクロファージからも分泌)、MCP-1(マクロファージなどを誘引)、レジスチン(インスリン抵抗性のタンパク;マクロファージも分泌)を分泌して動脈硬化を引き起こす原因となり、インスリン抵抗性による2型糖尿病発症のもとになる。更に血栓の形成や血圧を上げる酵素が分泌され、脳血栓や高血圧のリスクを高める。
図1. 生薬 白桃花
本研究は、老化と関わりの深い糖尿病、神経変性疾患、肥満などの難治性疾患に注目してこれらに有効な生薬を探索するもので、脂肪細胞、マクロファージ細胞、神経細胞、センチュウなどを用いた評価系により活性成分を同定し、更に作用機序について検討した。また創薬の観点から生物活性の強い化合物については、構造類似の化合物を合成して検討した。
白桃花は、白花のモモの桃花や蕾を乾燥したもので、民間では利尿、瀉下を目的に用いられる。(図2)先の研究で本生薬から脂肪前駆細胞の分化を促進する化合物としてアロマデンドリン(図2)を得ているが、今回更にアロマデンドリンをもとに構造類縁の化合物を合成した結果、マクロファージの活性化抑制作用と神経保護作用を持つ化合物を見出した。アロマデンドリンは、case study 20に掲載したようにセンチュウの寿命延長効果が認められている。
白桃花は、白花のモモの桃花や蕾を乾燥したもので、民間では利尿、瀉下を目的に用いられる。(図2)先の研究で本生薬から脂肪前駆細胞の分化を促進する化合物としてアロマデンドリン(図2)を得ているが、今回更にアロマデンドリンをもとに構造類縁の化合物を合成した結果、マクロファージの活性化抑制作用と神経保護作用を持つ化合物を見出した。アロマデンドリンは、case study 20に掲載したようにセンチュウの寿命延長効果が認められている。
図2. アロマデンドリン
中国原産のベンケイソウ科植物からマクロファージの活性化を抑制するポリフェノールを得、類縁化合物を合成してより活性の高い化合物を得た。この他、アルツハイマー疾患などを対象とした神経保護活性を持つ化合物を探索する目的で台湾産ヒカゲノカズラの成分研究を行い、新規アルカロイドを含む多くの化合物を分離した。
今回の研究成果は、諸種の難治性疾患に対して新たな生薬の活用法を示唆すると共に、新薬開発の種となるシード化合物を見出した。創薬への第一歩となる知見が得られ今後の発展が期待される。
今回の研究成果は、諸種の難治性疾患に対して新たな生薬の活用法を示唆すると共に、新薬開発の種となるシード化合物を見出した。創薬への第一歩となる知見が得られ今後の発展が期待される。