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研究・社会貢献

科研費 CaseStudy33


種多様性の指標となるDNAの網羅的解析による病原真菌資源の付加価値高度化の試み

病原微生物学研究室 准教授 廣瀬大

病原真菌を専門に扱うカルチャー・コレクション

菌糸や酵母として生きる真菌は地球上に150万種存在していると推定されています(実際に種の名前が記載されている種は9万9000種程)。このうちヒトに寄生・定着し、組織内に侵入して感染を引き起こす病原真菌とよばれるグループはほんの一部でありますが、それでも現在のところ530種程もしられています。これらの種の多くはカルチャー・コレクション(微生物の培養株を収集・保存すると共に、研究や教育などのために株の分与と情報の提供を行う機関)に生きた状態で保存されています。

病原真菌に起因する感染症を真菌症といいますが、その原因菌の分類学的研究(新種の記載など生物多様性を理解する研究)や真菌症に関わる生物学的・医学的研究(病気のメカニズムを明らかにする研究)を行うためには生きた状態の菌株が不可欠であります。例えば前者の研究の場合、原因菌の種同定を行うためには、形態的性状や生理学的特性を過去に他の研究者が分離培養した標準菌株と比較する必要があるのです。そこで研究者はカルチャー・コレクションから菌株を分譲してもらうことになります。一方、研究者自身が分離・培養し菌株を確立することもありますが、研究成果を公表する際には菌株を保存するための設備の整ったカルチャー・コレクションに菌株を寄託するのが一般的であります。この様に、カルチャー・コレクションの存在は真菌症に関する研究を遂行する上で必要不可欠であるといえます。

本研究の研究代表者の矢口貴志先生が所属する千葉大学真菌医学研究センターは病原真菌に特化した数少ないカルチャー・コレクションであります。国家プロジェクトであるナショナルバイオリソースプロジェクトの一環として病原真菌および関連菌種を世界的に収集、保存し、今後いかなる感染症が発生した場合でも対処できるコレクションを目指しているそうです。 病原真菌は、菌株に様々な情報 (患者の背景、治療経過、菌株の遺伝情報、薬剤感受性、病原性の強弱、地域性など) が付加されることよって、資源として有効に活用できると考えられます。本研究課題は、千葉大学真菌医学研究センターに保存されている貴重な菌株に遺伝情報に関する新たな情報を付加することで、その価値を高めることを目的として行われています。

病原真菌の生物学的理解につなげる

私は本研究に研究分担者として参画し、以下の様な研究を進めています。数ある病原真菌種の中から臨床での重要性が高く、保存菌株数も多い Aspergillus fumigatus(アスペルギルス症の原因菌)とCryptococcus neoformans(クリプトコックス症の原因菌)を研究材料とし、同種の菌株間を識別出来る高解像度な遺伝子型の特定(動物の場合だとDNAレベルで行う個体識別にあたります)を行っています。具体的には、ゲノム中に散在する一塩基の変異やマイクロサテライトとよばれる短い塩基配列の繰り返し数に見られる変異に関するデータに基づき遺伝子型を決定しています。カルチャー・コレクションにとっては、この様な遺伝子型データそのものが対象となる菌株の付加価値を高めることになります。また、その遺伝子型情報と薬剤感受性の相違、病原性の強弱、地域性との相関性が明らかにされた場合、菌株を利用する研究者にとってはさらに利用価値が高くなると考えられます。

ところで、遺伝子型データを基にして株間や採取された地域間での遺伝的変異の違いを評価する解析(主に集団遺伝学的解析)は基礎生物学視点からみるととても重要であります。この様な解析を行うと、臨床由来の菌株の遺伝的特徴が分かるだけでなく、場合によっては病原真菌の遺伝的な多様性がどの様に生まれ、維持されているのか、病原真菌がどの様に分布を拡大するのか、臨床由来の菌株の起源はどこなのか、といった疑問に対する理解が進むと期待されます。得られる知見は予防医学的に重要なものとなると思われるため、この様な解析も遺伝子型の決定と併せて行っています。
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