科研費 CaseStudy35
脳神経系希少疾患治療を目指した経鼻投与による脳内バイオ医薬デリバリー戦略の構築
薬剤学研究室 専任講師 金沢貴憲
希少疾患の一つであるライソゾーム病は、ライソゾームに存在する酵素の先天的欠損によって、全身の細胞に様々な基質が蓄積し、骨変形、呼吸障害、脳中枢神経疾患など全身に様々な臨床症状を呈する先天性代謝異常症であり、現在約40種類が存在している。近年、欠損している酵素を点滴により補充する酵素補充療法が国内で保険診療を展開するようになり、末梢の症状に関してはその多くが改善されるようになったものの、脳中枢神経症状には効果がないことが大きな問題となっている。これら脳中枢神経症状の治療が困難である最大の要因は、補充を必要とする酵素が水溶性高分子であるため、現在の点滴静注では、血液脳関門(Blood-Brain Barrier: BBB)の存在により、脳へほとんど送達できないことにある。
近年、BBBを介さずに薬物を脳へ送り込む新たな手段として、鼻腔より鼻粘膜を介して脳へ移行する“Nose-to-Brain”経路が報告されている(図1, Euro. J. Pharm. Sci., 11, 1-18 (2000), (Adv. Drug. Deliv. Rev., 64, 614-628 (2012))。 この経路は、非侵襲的かつ直接的に脳内に薬物を送達できることから、様々な薬物に対して活発に研究されている。
しかしながら、現在までの40年間の研究では、“Nose-to-Brain”経路を利用した薬力学的効果を示す報告が中心であり、薬物動態学的解析を基にした鼻から脳への移行経路ならびに脳内動態の解析はほとんど行われていないのが現状である(J. Control. Release, 189, 133-140 (2014))。そのため、脳内で効果的な薬理活性を示すために重要な移行経路(嗅神経経路・三叉神経経路・CSF 経路)や機構(神経細胞内輸送・細胞間隙輸送)は明らかではなく、薬物の特性に合った効果的な“Nose-to-Brain”移行経路の選択基準は、未だ確立されていない。
私はこれまで、核酸医薬の“Nose-to-Brain”デリバリーについて検討し、鼻粘膜透過過程で核酸医薬が大きく消失していることを突き止め、さらに鼻粘膜透過性ナノキャリアを開発し組み合わせることで、脳内へ核酸を効率的に送達できることを世界に先駆けて報告している(図2, Kanazawa他, Biomaterials, 34, 9220-9226 (2013))。またこのとき、脳への薬物移行過程において、嗅神経経路や三叉神経経路が大きく関わっていることを、定量的な解析から明らかにした。
このような背景の下、本研究では、鼻から脳への送達経路、いわゆる“Nose-to-Brain”を利用した非侵襲的かつ効果的な脳中枢神経系への酵素デリバリー戦略開発のための基盤技術の構築を最終的な目標とし、①鼻腔から脳内への高分子バイオ医薬の移行経路、脳内動態について、蛍光および放射性核種を用いて定量的に解析し、 “Nose-to-Brain”デリバリーに重要な変動要因を明らかとする、②変動要因を制御可能な機能性ペプチドやナノ粒子を選定・開発し、これを利用した画期的な脳内バイオ医薬デリバリー技術を構築する。
本研究は、現在のところ効果的な治療法のない希少疾患である先天性代謝異常症(ライソゾーム病)における脳への酵素補充療法に対して、革新的かつ有効な治療法開発に向けた基盤技術を確立する特徴を有しており、希少疾病医薬品の開発につながる、非常に必要性の高い重要な内容である。また、本研究で開発しようとしている希少疾患に対する治療法は、患者さんに優しい非侵襲的な経鼻投与であるため、侵襲的な脳内酵素補充療法に替わる新たな治療方法になると考える。さらに、この技術は現在開発されている様々なバイオ医薬と組み合わせて利用すれば、あらゆる脳中枢神経疾患治療に展開できる点においても非常に魅力的かつ意義ある研究である。
近年、BBBを介さずに薬物を脳へ送り込む新たな手段として、鼻腔より鼻粘膜を介して脳へ移行する“Nose-to-Brain”経路が報告されている(図1, Euro. J. Pharm. Sci., 11, 1-18 (2000), (Adv. Drug. Deliv. Rev., 64, 614-628 (2012))。 この経路は、非侵襲的かつ直接的に脳内に薬物を送達できることから、様々な薬物に対して活発に研究されている。
しかしながら、現在までの40年間の研究では、“Nose-to-Brain”経路を利用した薬力学的効果を示す報告が中心であり、薬物動態学的解析を基にした鼻から脳への移行経路ならびに脳内動態の解析はほとんど行われていないのが現状である(J. Control. Release, 189, 133-140 (2014))。そのため、脳内で効果的な薬理活性を示すために重要な移行経路(嗅神経経路・三叉神経経路・CSF 経路)や機構(神経細胞内輸送・細胞間隙輸送)は明らかではなく、薬物の特性に合った効果的な“Nose-to-Brain”移行経路の選択基準は、未だ確立されていない。
私はこれまで、核酸医薬の“Nose-to-Brain”デリバリーについて検討し、鼻粘膜透過過程で核酸医薬が大きく消失していることを突き止め、さらに鼻粘膜透過性ナノキャリアを開発し組み合わせることで、脳内へ核酸を効率的に送達できることを世界に先駆けて報告している(図2, Kanazawa他, Biomaterials, 34, 9220-9226 (2013))。またこのとき、脳への薬物移行過程において、嗅神経経路や三叉神経経路が大きく関わっていることを、定量的な解析から明らかにした。
このような背景の下、本研究では、鼻から脳への送達経路、いわゆる“Nose-to-Brain”を利用した非侵襲的かつ効果的な脳中枢神経系への酵素デリバリー戦略開発のための基盤技術の構築を最終的な目標とし、①鼻腔から脳内への高分子バイオ医薬の移行経路、脳内動態について、蛍光および放射性核種を用いて定量的に解析し、 “Nose-to-Brain”デリバリーに重要な変動要因を明らかとする、②変動要因を制御可能な機能性ペプチドやナノ粒子を選定・開発し、これを利用した画期的な脳内バイオ医薬デリバリー技術を構築する。
本研究は、現在のところ効果的な治療法のない希少疾患である先天性代謝異常症(ライソゾーム病)における脳への酵素補充療法に対して、革新的かつ有効な治療法開発に向けた基盤技術を確立する特徴を有しており、希少疾病医薬品の開発につながる、非常に必要性の高い重要な内容である。また、本研究で開発しようとしている希少疾患に対する治療法は、患者さんに優しい非侵襲的な経鼻投与であるため、侵襲的な脳内酵素補充療法に替わる新たな治療方法になると考える。さらに、この技術は現在開発されている様々なバイオ医薬と組み合わせて利用すれば、あらゆる脳中枢神経疾患治療に展開できる点においても非常に魅力的かつ意義ある研究である。