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研究・社会貢献

科研費 CaseStudy37


アネキシンA8を標的とした新規膵癌診断・治療法の開発

薬学教育研究センター 准教授 畑春実
 膵癌は、治りにくい癌(難治癌)の代表です。我が国における膵癌の死亡数は30年前に比べて3倍以上に増加し、その数は年間30,000人を越え、現在も増加傾向を示しています(平成26年厚生労働省人口動態統計)。部位別で比較すると、膵癌の5年生存率は最も悪く、5%未満、診断後の平均生存期間は8.6ヶ月程度と、極めて予後不良(治療成績が悪い)です。これは、早期診断が困難であるために発見時に切除不能な進行例が多いこと、切除が出来ても高頻度に再発すること、治療抵抗性が高く、浸潤・転移能が高いこと等が原因と考えられます。このため、膵癌患者の予後改善には、早期診断法と新規治療法の開発が必要となります。本研究は、早期診断のための特異性・感受性の高い膵癌診断マーカーを確立すること、新規治療法の開発のための新規治療ターゲット分子を同定することを目的に、平成21-22年度科学研究費補助金若手研究(B)交付期間、平成23-24年度科学研究費助成事業若手研究(B)交付期間から継続して取り組んでおります。
 私は、カルシウム/リン脂質結合タンパク質でありますアネキシンA8 (ANXA8) が、1)正常細胞では発現が認められず、2)ヒト膵癌細胞株においては発現が亢進していること、3)プロモーター領域の脱メチル化により発現が誘導されること、4)HIF-1α(低酸素誘導因子)の発現を誘導すること、5)膵癌細胞の悪性化(増殖能・遊走能・浸潤能)に関連すること、6)細胞死に関連すること(図1)、7)抗癌剤に対する抵抗性に関連すること、を明らかにしてきました。これらのことから、ANXA8は、膵癌の発癌、進展の過程に寄与する重要な新規癌関連遺伝子である可能性が示唆されました。膵癌の発癌・進展の過程で、何らかの要因によりエピジェネティクス制御機構(遺伝子の発現を調節するシステム)の破綻(脱メチル化)によるANXA8の発現誘導が引き起こされ、膵癌が生存する能力を高めるとともに、抗癌剤に対する感受性も低下させている可能性が考えられます。これらの研究成果から、ANXA8が膵癌の新規診断マーカーや治療標的分子となりうる可能性が示唆されました。
 ANXA8を標的とした感度の高い早期膵癌診断システムと、特異性・安全性の高い分子標的治療薬を開発し、臨床研究まで応用させることができれば、将来の膵癌の早期診断、治療最適化、予後改善につながると期待しています。そのための基礎研究として、本研究の成果は重要な意味を持つと考えています。

ヒト膵癌培養細胞株BxPC-3のANXA8の発現を抑制すると、細胞死、増殖抑制が引き起こされる

(クリックすると図が拡大します)

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