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研究・社会貢献

科研費 CaseStudy39


環状ポリオールは新規糖代謝調節分子の鍵化合物になり得るか?

有機化学研究室 教授 内山武人
我々はこれまでにCaseStudy21に基づき研究をおこなった結果、環状ポリオール(1,5-アンヒドロアルジトール)類を簡便かつ大量に調製できることを見出しました(Tetrahedron Letters, 57, (2016) 5294-5296)。本調製法は再結晶により目的物を得ることができるので、煩雑なシリカゲルカラムクマトグラフィーによる精製操作を必要としません。例えばD-グルコースを出発物質として用いた場合、この調製法を用いると3日以内に対応する環状ポリオール、すなわち1,5-アンヒドログルシトール(1,5-AG)を数十グラムのスケールで得ることができます。1,5-AGは市販されていますが、100 mg単位で換算すると、その価格はD-グルコースの約10,000倍になります(平成30年6月現在)。また、1,5-AGはヒトの血中にD-グルコースについで多く含まれる糖質であり、その濃度は血糖コントロールの状態を表わす重要な指標として糖尿病の診断にも用いられていますが、1,5-AGの生理的な意義については未だ詳細にはわかっていません。
本調製法により、1,5-AG以外にも下図に示すような様々な環状ポリオール類が対応する無保護糖より調製できることがわかっています。

(クリックすると図が拡大します)

一方、ヒトにおいて糖代謝の調節能力が破綻すると糖尿病をはじめとする様々な病気を引き起こすことが知られています。そのため多くの研究者がこの点に着目して薬の開発に挑んでいます。例えば、α-グルコシダーゼという酵素はデンプンなどからグルコースを生産するために働く重要な酵素であることから、その阻害剤は薬として用いられています。
上図に示しましたように1,5-AGの構造は、エネルギー源となるグルコースとは似て非なるものです。本研究は、このグルコース「っぽい」構造を上手く利用して糖の代謝へ影響を与える化合物を見出すことが目的の一つです。糖の代謝調節能を評価する方法として、本研究ではα-グルコシダーゼ阻害活性を指標の一つとします。例えば、ポリフェノール類の一種であるテリマグランジンⅠ(Tellimagrandin I)には、強いα-グルコシダーゼ阻害活性があることがわかっていますが、その構造中には糖尿病の患者さんにとって有難くない「グルコース」が含まれています。そこで、グルコースの代わりに1,5-AGをあてはめた構造を有するテリマグランジンⅠ「アナログ」を化学的に合成し、α-グルコシダーゼ阻害活性を評価します。我々の研究室では、1,5-AG以外にも様々な環状ポリオールを調製できることから、多くのテリマグランジンⅠ「アナログ」の化合物ライブラリーを構築することが可能です。もしかしたら、その中からより強い阻害活性をもつ新しい化合物が見つかるかもしれません。
また、桑の葉などに多く含まれるデオキシノジリマイシン(Deoxynojirimycin)にも強いα-グルコシダーゼ阻害活性があることがわかっていますが、その構造を1,5-AGと比較すると構造上の違いは環内の元素だけであることに気づきます。残念ながら1,5-AG自身にはα-グルコシダーゼ阻害活性はありませんが、我々は、この構造上の類似点にも着目して環状ポリオール由来糖質代謝調節分子の探索研究をすすめていきます。

(クリックすると図が拡大します)

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