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研究・社会貢献

科研費 CaseStudy41


成長・体格補正を考慮した臨床ファーマコメトリクスによる新たな抗菌薬治療法の創出

薬剤師教育センター 教授 辻泰弘
2015年12月、日本政府は「国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議」の中で、「医療分野における抗菌薬の適正な使用を推進すること」を公表しました。感染症に対峙し「化学療法を再考する」ことは科学に精通する者に課せられた大きな命題です。一方、日本では高齢者が全人口に占める割合は25%に達し、80歳以上の高齢者も1,000万人を超えています。抗菌薬・抗真菌薬の不適正な使用は、感染症を重篤化させ、患者の生命を危機にさらすだけでなく、医療経済に大きな損失をもたらします。臨床ファーマコメトリクスは、生化学的・生体生理学的な患者の情報(くすりの投与量、投与された薬物濃度、年齢、性別および血液検査値等)を定量的に組み込み、薬物の体内動態や臨床反応を予測・説明する手法です。本研究の目的は、抗菌薬の生体内薬物濃度を指標に、“いつ、どの程度”有効性が得られ、“いつ、どの程度”副作用が発現し回復するかを時系列で予測することです。

①抗菌薬テイコプラニン (TEIC) の薬物濃度-C反応性たんぱく予測モデルの構築
テイコプラニン (TEIC) は、グリコペプチド系の抗菌薬であり、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌を含む重症グラム陽性菌感染症治療に用いられています。TEICの治療効果は薬物血中濃度依存的であることから、投与期間中は体内の薬物濃度を測定することが推奨されていますが、患者ひとりひとりにあう投与量は明確ではありません。そこで、237名の患者からTEICの薬物血中濃度395ポイントを含む臨床データを収集しました。感染症における炎症性の指標として、C反応性たんぱく (CRP) が検査されます。TEICがCRPの生成を阻害する間接反応モデルにより評価しました。TEICの消失半減期は169 hであると推定されました。CRPの変動は標準的な間接反応Imaxモデルにより説明され、CRPの生成を50%阻害するTEICの薬物濃度は2.69 mg/Lであると推定されました。また、図のように1回800 mgもしくは12-15 mg/kgの負荷投与を実施することにより、50%以上の確率で治療有効域内の濃度が得られることがわかりました。
②成熟度を考慮した抗菌薬リネゾリド (LZD) の小児薬物濃度-血小板予測モデルの構築
LZDは小児に対しても使用可能な抗菌薬です。15名の小児患者からLZDの薬物濃度のデータを収集しました。新生児の臓器の機能は成人と同等ではなく、未成熟な状態から成人と同程度まで成熟していきます。そこで、成熟度をシグモイドモデルで設定しました。興味深いことに成人患者と同様、薬物血中濃度依存的な血小板減少症の発現が認められました。
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