グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



研究・社会貢献
ホーム >  研究・社会貢献 >  薬学部共同研究助成金 >  平成15年度選定

平成15年度選定


運動神経変性疾患の病態解明と実験的治療に関する研究


1. 研究の目的

中枢神経における神経変性疾患として、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、プリオン病などが知られている。このような神経変性疾患は、神経難病とも呼ばれ、それぞれの発症機構および新規治療薬の開発についてなお不明な点が多く残されている。また、これまでの研究から、各疾患に共通する発症機構が存在する可能性も示唆されている。本研究では、神経変性疾患の発症機構解明並びに新規治療薬開発の一環として、運動神経変性疾患の発症機構の解明、および神経細胞死におけるグルタミン酸受容体の役割の解明を中心に新規治療薬および予防薬を探索した。運動神経変性疾患としては、成人になって発症し、呼吸麻痺により死に至る筋萎縮性側索硬化症(ALS)が最も緊急の研究対象である。ALSを研究するに際し、発症機構は不明だが類似の症状を示す運動神経変性疾患が報告されている。それは、発展途上国において飢饉などで食料が不足する際、野生のマメ(グラスピー、Lathyrus sativus)を過剰摂取することによって生じるニューロラチリズムである。この疾患の発症機構を解明することにより、ALS発症機構解明のヒントが得られるものと思われる。また、神経細胞死を誘発する共通機構としてグルタミン酸による興奮毒性が知られている。そこで、本研究においては、分子レベルから動物個体レベルまでの様々な生物学的アプローチを企画し、以下の3つの研究班に別れてそれぞれ検討を加えた。
  1. 筋萎縮性側索硬化症(ALS)に関する研究
  2. ニューロラチリズムに関する研究
  3. グルタミン酸受容体に関する研究

2. 得られた成果

(1) 筋萎縮性側索硬化症(ALS)に関する研究

神経細胞死には酸化的ストレスや小胞体ストレスが関与している場合が多い。そこで、遺伝的ALSモデル動物および正常動物より培養脊髄神経や脊髄切片培養系を調製し、運動神経変性に対する小胞体ストレスと酸化的ストレスの関与を調べた。その結果、ALSのモデルマウスであるSOD1トランスジェニックマウスでは、運動機能障害発症時期と相関して酸化的ストレスのマーカーとなる4-hydroxynonenal (HNE)付加タンパク質が増加することが明らかとなった。そこで、HNE誘発細胞死に対して保護作用を持つことが知られているN-acetyl-l-cysteine(NAC)がALSモデルマウスに及ぼす影響について検討を行なった。しかし、NACは生存期間をわずかに延長するものの、ALSにおける運動機能障害には影響を及ぼさないことが示された。

(2) ニューロラチリズムに関する研究

ニューロラチリズムの原因物質が、グラスピー中に存在するアミノ酸であるL-β-ODAPであることが解っている。そこで、L-β-ODAPによる運動神経死の機構解明を試みた。in vitro系ではL-β-ODAPによる神経変性に、含硫アミノ酸のレベル低下が重要な要因となること、更に神経細胞死への寄与が大きい細胞内Ca2+レベルの上昇には、transient receptor potential (TRP) channelの関与が重要であることも判明した。また、L-β-ODAP投与による in vivoモデル動物を作成し、運動神経の脱落を組織学的に確認するとともに、麻痺発症時には脊髄下部で広汎な出血が見られ、VEGF受容体の発現低下が観察されることも示した。

(3) グルタミン酸受容体に関する研究

グルタミン酸受容体の一種であるN-methyl-D-aspartate (NMDA) 受容体の過剰興奮は、ALSや脳虚血時の二次発作などのさまざまな神経疾患に関与していることが知られている。そこで、NMDA受容体活性を特異的に抑制する化合物を探索した。その結果、cyclophane誘導体であるTsDCnが、既知のNMDA受容体阻害薬であるメマンチンよりNMDA受容体活性を強く抑制し、細胞毒性も弱いことが明らかとなった。その作用機構は、NMDA受容体チャンネル・ポアの内部に作用してチャネル機能を阻害することが示された。この薬物はin vivoの末梢投与でも作用することが確認され、後期のアルツハイマー病治療薬として欧米で使われているメマンチンよりも、有効性が高く毒性が低いことも確認された。

3. まとめ

今回の共同研究では、ALSに対する有効な治療薬の開発にまでは至らなかったものの、ニューロラチリズムモデル動物の開発やその病態に関する特徴のいくつかを解明することができた。更に、グルタミン酸興奮毒性の拮抗薬開発につながるいくつか候補物質を見出すことができ、8編の論文と28演題の学会報告にまとめて発表した。今後は、3つの研究班が有機的に連携し、候補物質の運動神経変性疾患に対する有用性を検討してゆきたい。
  • 資料請求
  • デジタルパンフ
  • オープンキャンパス・入試イベント