平成17年度選定
神経芽腫にアポトーシスを誘導させる新規天然活性成分の探索研究
神経芽腫とは、小児がんの中で白血病に続いて多く発生する小児固形腫瘍の一種である。神経芽腫の多くは診断時にすでに進行した状態で見つかり、強力な抗がん剤治療や放射線療法、骨髄移植療法、外科的な治療を駆使した現代の医療技術をもってしても、進行例の5年生存率は30%程度であり、治療が困難な腫瘍の1つである。また、小児がんでは治療が成功した場合でも、強力な治療の副作用などにより成長が遅れたり、臓器の機能に影響がでたりすることが知られている。従ってこのことから、神経芽腫に対して有効かつ安全な治療薬の開発は急務である。
がん細胞と戦うには様々な戦略があるが、その1つとしてアポトーシス誘導効果を利用した戦略が挙げられる。アポトーシスとはプログラム細胞死の代表例であり、多細胞生物の通常の成長や老化には欠かせないいわゆる「細胞の自殺」である。神経芽腫の発生にはこのアポトーシス誘導の異常が関係することが知られており、神経芽腫細胞にアポトーシスを誘導することができる薬が見つかれば、有効な治療薬になるかもしれない。現在、臨床で用いられている抗悪性腫瘍薬は、植物成分やその化学構造を一部修飾したものが数多く存在し、これらの作用メカニズムにアポトーシスの関与が報告されている。そこで我々は、数多くの天然物から神経芽腫の治療に有用な活性成分の探索を試みた。
がん細胞と戦うには様々な戦略があるが、その1つとしてアポトーシス誘導効果を利用した戦略が挙げられる。アポトーシスとはプログラム細胞死の代表例であり、多細胞生物の通常の成長や老化には欠かせないいわゆる「細胞の自殺」である。神経芽腫の発生にはこのアポトーシス誘導の異常が関係することが知られており、神経芽腫細胞にアポトーシスを誘導することができる薬が見つかれば、有効な治療薬になるかもしれない。現在、臨床で用いられている抗悪性腫瘍薬は、植物成分やその化学構造を一部修飾したものが数多く存在し、これらの作用メカニズムにアポトーシスの関与が報告されている。そこで我々は、数多くの天然物から神経芽腫の治療に有用な活性成分の探索を試みた。
アシタバ (Angelica keiskei) は伊豆諸島などに自生するセリ科の植物である。この茎を切断すると黄色い汁が出るが、これには xanthoangelol というアシタバカルコンが多く含まれている。我々は培養したヒト神経芽腫細胞株に、この xanthoangelol を添加して48時間後に細胞生存率を調べたところ、顕著な細胞死が誘導されていることが分かった。この細胞死がアポトーシスによるものか否かを調べるために、xanthoangelol を作用させた神経芽腫細胞の核を蛍光染色したところ、アポトーシスの特徴である核の凝集や断片化が起きており、アポトーシスが誘導されていることが分かった[1]。
このアポトーシスの誘導メカニズムを明らかにするため、xanthoangelol を作用させた神経芽腫細胞においてどのようなタンパク質に変動があったのかを網羅的解析 (プロテオミクス) により調べたところ、DJ-1 というタンパク質の減少が認められた。この DJ-1 は酸化ストレスに応答するタンパク質であることから、活性酸素種の関与について調べたところ、xanthoangelol によるアポトーシス誘導には活性酸素種の発生が必要であることが明らかとなった[2]。
また、アシタバから得られたカルコンである isobavachalcone とxanthoangelol H は神経芽腫細胞培養株に対しては細胞死を誘導し、その一方で神経系の正常細胞に対しては細胞死を引き起こさないという実験結果も得られた[3]。
このアポトーシスの誘導メカニズムを明らかにするため、xanthoangelol を作用させた神経芽腫細胞においてどのようなタンパク質に変動があったのかを網羅的解析 (プロテオミクス) により調べたところ、DJ-1 というタンパク質の減少が認められた。この DJ-1 は酸化ストレスに応答するタンパク質であることから、活性酸素種の関与について調べたところ、xanthoangelol によるアポトーシス誘導には活性酸素種の発生が必要であることが明らかとなった[2]。
また、アシタバから得られたカルコンである isobavachalcone とxanthoangelol H は神経芽腫細胞培養株に対しては細胞死を誘導し、その一方で神経系の正常細胞に対しては細胞死を引き起こさないという実験結果も得られた[3]。
xanthoangelol 作用前の神経芽腫細胞
xanthoangelol 作用24時間後の神経芽腫細胞
リョウキョウ (Alpinia officinarum) は東南アジア諸国では香辛料として用いられているショウガ科の植物の根茎である。我々はリョウキョウから新規化合物 2 種を含む 17 種類のジアリルヘプタノイドを単離することができた[4]。このうち2種類のジアリルヘプタノイドには神経芽腫細胞に対して特に強い細胞傷害活性が認められ、アポトーシスを誘導することが分かった。このアポトーシスはミトコンドリアからのシグナル伝達経路で重要な役割を果たすカスパーゼ9の活性化が関与することが、ウエスタンブロット法によるタンパク質解析により明らかとなった。また、これらのジアリルヘプタノイドはアポトーシス誘導と同時にDNA合成期で細胞周期を止めることが、フローサイトメトリーを用いたDNA含量解析により分かった。細胞周期とは細胞が分裂し増殖するサイクルであり、これを停止する化合物が見いだされたことは、癌細胞の増殖を止めることにつながると考えられる。さらに、このジアリルヘプタノイドを低濃度で神経芽腫細胞に添加すると、未分化の(すなわち増殖が速くて悪性度が高い)神経芽腫細胞を、神経細胞様に分化させる(おとなしい細胞に変化させる)ことができた。
このようにリョウキョウ由来のジアリルヘプタノイドは、神経芽腫細胞に対してさまざまな抗腫瘍効果を併せ持つことが明らかとなった[5]。
これらの候補化合物が実際の臨床現場で患者さんに使われるようになるためには、さらに多くの研究を重ねる必要があるが、今後も新薬の候補となる可能性がある植物成分を発見し、それを治療薬になるまで育ててゆきたい(育薬)と考えている。
これらの候補化合物が実際の臨床現場で患者さんに使われるようになるためには、さらに多くの研究を重ねる必要があるが、今後も新薬の候補となる可能性がある植物成分を発見し、それを治療薬になるまで育ててゆきたい(育薬)と考えている。
参考文献:
- Tabata K, Motani K, Takayanagi N, Nishimura R, Asami S, Kimura Y, Ukiya M, Hasegawa D, Akihisa T, Suzuki T. Xanthoangelol, a major chalcone constituent of Angelica keiskei, induces apoptosis in neuroblastoma and leukemia cells. Biol Pharm Bull. 2005 Aug;28(8):1404-7.
- Motani K, Tabata K, Kimura Y, Okano S, Shibata Y, Abiko Y, Nagai H, Akihisa T, Suzuki T; Proteomic analysis of apoptosis induced by xanthoangelol, a major constituent of Angelica keiskei, in neuroblastoma. Biol Pharm Bull. 2008 Apr;31(4):618-26.
- Nishimura R, Tabata K, Arakawa M, Ito Y, Kimura Y, Akihisa T, Nagai H, Sakuma A, Kohno H, Suzuki T. Isobavachalcone, a chalcone constituent of Angelica keiskei, induces apoptosis in neuroblastoma. Biol Pharm Bull. 2007 Oct;30(10):1878-83.
- Sun Y, Tabata K, Matsubara H, Kitanaka S, Suzuki T, Yasukawa K; New cytotoxic diarylheptanoids from the rhizomes of Alpinia officinarum. Planta Med. 2008 Mar;74(4):427-31.
- Tabata K, Yamazaki Y, Okada M, Fukumura K, Shimada A, Sun Y, Yasukawa K, Suzuki T; Diarylheptanoids derived from Alpinia officinarum induce apoptosis, S-phase arrest and differentiation in neuroblastoma cells. Anticancer Res. in press.